2022年度 活動レポート 第27号:金沢大学

2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第027号 (Bコース)

インドネシアの農村地帯での希少野生動物を象徴種とした
生物共生農業の構築に向けた国際共同研究

金沢大学 環日本海域環境研究センター
准教授 西川 潮さんからの報告

 2022年11月7日から11月20日までの14日間、インドネシア西スマトラ州のアンダラス大学から、生物学専攻の学部生6名、アグリビジネス専攻の学部生3名、引率教員1名の計10名を日本に招へいしました。2021年度はコロナ禍で招へいが実現しなかったため、当初からプログラムに参加していた5名にとっては2年越しの渡日となりました。

【白山ユネスコエコパークのゾーニングのしくみに関わる研修】

 生物多様性の保全と自然資源の持続的利用を目的とした白山ユネスコエコパークで、核心地域、緩衝地域、移行地域といった、目的に応じて土地利用が分けられるゾーニングのしくみを学びました。

【佐渡世界農業遺産でのトキ関連施設の訪問、農業研修、生物実習、文化研修】

 佐渡島では2008年よりトキを象徴種とした自然再生が進められています。この取組みが認められ、佐渡は2011年に世界農業遺産(GIAHS)に認定されました。

 島内で20年以上にわたり水稲とおけさ柿の無農薬・低農薬栽培を進めている矢田農園で、おけさ柿の収穫と、脱渋、干し柿づくりを行い、堆肥づくりを学びました。

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矢田農園でカキの脱渋のしくみを学ぶ

 講義では、新潟大学の豊田光世准教授が「朱鷺と暮らす郷づくり」認証米制度と、農家対象のアンケート調査の結果を紹介しました。続いて、西川准教授が、水田の生物多様性評価に関わる野外研究を紹介しました。

 トキの保護増殖事業について学ぶため、トキ保護センターとトキの森公園を訪問しました。また、潟上水辺の会の水田ビオトープで生物調査を行うとともに、(株)セブンシステムの冬期湛水田と江(え)の造成された水田を訪れ、生きものを育む農法についての理解を深めました。

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佐渡トキ保護センターの順化ケージでトキの訓練法の説明を受ける

 里山資源の利活用法の一環として竹細工や石細工を学びました。また、宿根木集落や佐渡金山の訪問、はんぎり(たらい船)の乗船等により、地域の歴史と文化を学びました。

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佐渡市の水田ビオトープでの生物調査風景

【白山市でのバイオロギング実習】

 白山自然保護センターの協力のもと、バイオロギング実習を行いました。講義の前半では施設ならびに白山地域の動植物と文化の紹介があり、後半ではニホンザルのテレメトリー調査について学びました。次に、野外に出て、受信機を用いてニホンザルを探索し、サルの個体の位置から群れの位置を特定する実習を行いました。

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バイオロギング実習の風景

【生態系サービスへの支払い(PES)研修】

 自然資源や地域文化の価値を定量化するうえで、生態系サービスへの支払い(PES)評価が有効です。滋賀大学の田中勝也教授から、最初にPESの概念や研究の動向に関わる説明を受け、次にスマトラ島のアグロフォーレストリーの経済評価と、アンケート調査法を学びました。

【西スマトラ州の水田地帯での希少野生生物を象徴種とした社会生態システム再生法の提案】

 最後に、象徴種班、水田の生物多様性班、農業ツーリズム班の3つの班に分かれて成果発表会を行いました。総合討論では、象徴種の生態や、水田の生物多様性指標、PES評価に関わる課題が議論されました。

 本プログラムの開始直前に、科研費・国際共同研究強化(B)「コツメカワウソの生態解明による生物共生農業の構築:インドネシアの水田地帯を事例として」が採択され、2026年度にかけて、本格的な国際共同研究を進める運びとなりました。参加者とは、今度は3ヶ月後にパダン市で再会することを約束し、プログラムを終えました。本プログラムにより、引率教員の再来日に加えて、参加者の基礎知識と研究手法の習得、現地の協力体制の構築、PES評価の対象となる自然資源・地域文化のアイディア出し等が達成できました。日本とインドネシアでは気候帯も文化も異なるため、佐渡の自然再生のケースがそのまま西スマトラに当てはまるわけではありませんが、現地の状況を踏まえた自然再生の推進策を考えるうえで、参加者にとっても受入者にとっても有意義なプログラムになりました。本プログラムの円滑な運営にご尽力いただいたさくらサイエンス事務局、学内関係者、協力者の皆様にお礼を申し上げます。

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プログラム終了時の記念撮影