2022年度 活動レポート 第8号:理化学研究所

2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第008号 (Aコース)

インドネシアの大学生がスーパーコンピューターの利用法と大規模計算器科学ネットワークを学ぶ

理化学研究所中間子科学研究室
渡邊 功雄さんからの報告

 本プログラムは、インドネシアのスラウェシ島にあるチョクロミアントパロポ大学と連携し、日本における大型計算機施設の実際と、日本をカバーする大規模な計算機科学ネットワークを研修してもらうことを目的としています。昨年に最初のプログラム申請が採用されましたが、コロナ禍によって学生の来日が長い間かないませんでした。今年度になり入国制限が緩和されることに伴い、申請時の学生が卒業する直前に来日を果たすことができました。

 世界を代表するスーパーコンピューターである「富岳」をはじめ、日本の各大学で実際の研究に活躍している大型計算機設備を見学して、それぞれの施設を利用する研究者との交流を行いました。大学のある町からスラウェシ島の主国際空港であるハサヌディン空港まで深夜のリムジンバスで8時間。ジャカルタの空港で約四半日を過ごし、その後の深夜のフライトで日本へ到着するという強行軍で、日本への移動だけでも2泊3日という日程にも関わらず、元気な笑顔で日本に降り立ちました。参加者全員が海外旅行は初めてで、自国ととても違う雰囲気の日本を最初からとても楽しんでおりました。

 来日後、東京大学のスーパーコンピューター施設を見学しました。このスーパーコンピューターは国内の大学においてもっとも高性能な施設です。データを保管するハードディスクの容量の大きさ、計算機性能の高さに学生たちは感銘を受けました。また、この施設を利用する研究者からどのような応用例があるかという講義を受けることにより、スーパーコンピューターが実際の研究にどのように利用されているかを学ぶことができました。また、学生たちは東京圏の交通網に関しても強い印象を持っていました。彼等の住むスラウェシ島には鉄道がなく、ほとんどの学生にとって鉄道が初体験とのことで、刻々と変わる車窓からの眺めに見入っておりました。

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東京大学柏キャンパスにて

 次の見学地は神戸の「富岳」です。東京からは新幹線になり、普通の列車とは異なるhigh-speed railを皆さん楽しんでおりました。東京⇒神戸の2時間半があっというまだったそうです。コロナ禍の影響により「富岳」の一般公開はまだ実施されておらず、現地の研究者のご好意で施設を見学させ頂きました。詳しい説明はありませんでしたが、コロナ禍におけるリモート見学によって大体の概要は説明されており、実際の設備を見てその大きさと性能を勉強することができました。特に、どのようにすればこの施設を利用できるようになるか、などという質問も飛び、可能であれば研究者としての道を探りたいという熱意も感じられました。

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理化学研究所計算科学研究センターにて

 「富岳」を訪問した後には大阪大学のCyber Media Center を訪問しました。大阪大学も東京大学に比肩するスーパーコンピューターを保有しております。東京大学と大阪大学は異なったサプライヤーを用いおり、その差に関しても勉強することができました。スーパーコンピューターを統括する研究者や、それを活用して歯科研究に応用している先生の研究内容に関する説明を聞き、計算機の幅広い応用に触れることができました。また、東京とは異なる環境を持つ大阪を見ることで、日本にも多様な文化があるということも実感できました。

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大阪大学Cyber Media Centerにて

 さらに、受け入れ機関である理化学研究所のスーパーコンピューター施設であるHOKUSAIを見学し、研究者とともにその利用法とプログラム法に関して学びました。実際のプログラムを走らせて自分のパソコンとのスピード競争を見て、スーパーコンピューターがいかにパワフルかということを実感しておりました。

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スーパーコンピューター施設HOKUSAIにて

 受け入れ研究室ではインドネシアからの留学生が多く、滞在中も食事などに関して配慮することができ、言語の壁も留学生が通訳することによってさほど影響を与えることがなく、ストレスフリーな滞在を送ることができました。計算機のパフォーマンスと研究者との対話に感銘を受け、参加者のうち数人が修士課程への進学を希望する決意を固めました。現在、ジャワ島にある有名国立大学への進学のために、現地の教官と話をしているところです。

 1週間という極めて短い研修期間でしたが、参加者にとってはとても印象的で極めて有意義な経験になりました。帰国後、大学の学長へ報告を行うとともに、地元の新聞であるPalopo Posの第4面に今回の訪問に関わる特集記事が写真入りでページの半分を割いて大々的に報道されました(8月11日付け)。スラウェシ島は本島のジャワ島に比して教育環境が十分とは言い難い状況ではありますが、学生の熱意は変わることはありません。今回のプログラムを契機に、より多くの学生が日本のテクノロジーに興味を持ち、さくらサイエンスプログラムを活用して来日し、それらに触れる機会を得られることを期待してやみません。