2022年度 活動レポート 第1号:金沢大学

2022年度活動レポート(一般公募プログラム)第001号 (Cコース)

統合的環境研究手法を環日本海域の里山・里海から学ぶ

金沢大学 環日本海域環境研究センター
教授 長谷部 徳子さんからの報告

 コロナ禍が落ち着きを見せつつあった令和4年4月に、さくらサイエンスプログラムに採択されたという通知をいただきました。国際的な状況に鑑み、思い切って対面でのプログラム実施を決意しました。参加者はモンゴル国立大学、国立台湾大学、イェール大学シンガポール校の学生たちです。昨年度からさくらサイエンスの対象国が世界に拡大していたため、ニュージーランド国籍、カナダ国籍の学生などダイバーシティに富んだ参加者を得ることができました。招へい機関とはコロナ禍のもとでも交流の可能性を探り、定期的に連絡を取っておりました。参加学生は首を長くして来日できる機会を待ってくれていましたので、招へい手続きをスムーズに進めることができました。

 プログラムの実施にあたり、大きな懸念はやはり感染症の蔓延を助長してしまうのではということでした。しかし私自身も5月・6月と海外出張を経験し、日本に来る前に受けるPCR検査の実施や、その結果とワクチン接種状況などを登録するアプリの活用により、適切に受け入れを実施すれば来日者を警戒する必要はないと感じておりました。

 本プログラムでは環日本海域環境研究センターで実施している大気、海洋、陸域を対象とした統合的な環境研究の手法を、当センターのブランチがある能登地方・加賀地方にて学んでいただきました。金沢大学の学生も参加し、4か国の混成メンバーからなる5つの班に分かれて実習・実験・調査に取り組みました。

【海洋生物学・物理化学海洋学実習】

 能登では海洋実習を行い、海水の物理化学的調査や海洋生物の調査を行いました。海水の調査は臨海実験施設保有の船で行い、ロガーで得たデータの解析を行うとともに、発色を利用して海水のSi濃度測定を行いました。海洋生物の観察はウェットスーツに着替えて海に入ったり、プランクトンネットや夜間の集魚灯を利用したりするなど多角的に行いました。またウニの発生に、重油などに含まれるPAH(多環芳香族炭化水素)がどのような影響を与えるか、実験的に確かめました。

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うにの卵を採取するために、棘を成形する参加者
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汚染物質がうにの受精にどのような影響を与えるかの実習

【大気環境学・植生学実習】

 大気環境の講義では、雲の形成プロセスを実験的に体感し学生たちは歓声をあげていました。里山のマネージメントの学習では、水田の生物相の観察を行いましたが、モンゴルの学生は虫やどじょう・カエルを見つけるのがとても上手でしたし、昆虫学を専門にしているシンガポールの学生もいて、お互い教えあって各班とも取り組んでいました。台湾大学の学生は自国の水田の生物相のダイバーシティについて考えを巡らせていました。また植生については、人工的な植林が行われている場所と天然の植生が残されている場所で、樹木の種類やそのサイズなどの調査の方法を学びました。

活動レポート写真3
人工的に雲を発生させて雲凝結核の役割を学ぶ

【陸水環境・環境放射能化学・鉱山環境実習 】

 加賀では当センターが誇る低レベルの放射線を測定する施設を見学してもらうとともに、木場潟の水質のマネージメントを紹介し、ビオトープが水質に与える影響をパックテストを利用して実感してもらいました。また尾小屋鉱山を訪ね鉱業が環境に与える影響や廃坑後の環境の復元について学びました。加賀や能登の地形・地質についても説明を受け小松市の有名な石材の採取地に行き地質資源の利用について学びました。

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小松市の石材採取跡地で地形・地質を学ぶ

【実習成果報告会】

 最終日には各班がそれぞれの視点からプログラムで学んだ内容について取りまとめ、発表を行いました。アンケートの結果では全ての学生がとても満足し、「必ず日本にもう一度研究者として、もしくは留学生として来たい」と言ってくれました。幅広い環境学の手法が学べたことや、多国籍でのプログラムでお互いの国のことを学びかつ友情を育めたことを評価する声も多くあがりました。色々なバックグラウンドを持つ国の学生が知識を共有しながらプログラムに取り組み、活発な学生交流が行われたことが今回の大きな成果だと思います。長きにわたり制限を強いられてきた学生たちの、実地で学ぶことへの貪欲さには感服しました。

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発表に備えてグループに分かれて準備に余念がない学生たち

 オンライン交流に慣れてきて、それでも十分な成果をあげられると思っておりましたが、いざ目の当たりに学生たちが議論し、相談し、手を動かし、生き生きと取り組んでいる様子を見て、やはり血の通った交流に勝るものはないのかなと、改めて対面交流の威力を見たと思います。「このプログラムの継続実施を」とコメントをくれた学生もいました。今後もプログラムを改訂しながら招へいを行い、今回の参加学生がリーダーとして参加してくれるようになるまで交流を継続したいと思います。このような交流が可能になったのもさくらサイエンスでのきめ細かいサポートとご支援のおかげです。心より御礼を申し上げます。