2021年度活動レポート(一般公募プログラム)第091号 (代替オンライン)
マグネシウム合金の表面処理及び防食材料の研究
北海道大学からの報告
交流日:2022年2月10日、2月11日、2月14日、2月17日
オンライン事前交流日:2021年10月19日、20日
交流機関: | 中国科学院海洋研究所 海洋環境腐食と生物汚損重点実験室 |
北海道大学大学院工学研究院材料科学部門マテリアル設計講座 | |
参加者: | 中国科学院海洋研究所 路東柱博士、鄭萌博士、学生 |
北海道大学大学院工学研究院材料学部門 坂入正敏、学生 |
【交流の目的】
低炭素社会の実現には、飛行機だけでなく幅広い分野で軽量、高強度でリサイクルが容易な材料が切望されている。その1つに実用金属材料中で最も軽量なマグネシウム合金がある。マグネシウム合金は長年研究されているが、マグネシウムが活性な金属であること、アルミニウムと異なり保護性ある酸化物皮膜(不動態皮膜)を形成しにくいため、特に塩化物イオンの存在する環境における耐食性が乏しい。このような理由から、利用範囲が限られている。そのため、耐食性を向上する研究が数多く行われてきた。その1つに腐食抑制剤を用いる表面改質による耐食性の向上がある。
交流機関先の代表である、路博士はこの分野で先進的な研究を行い、多くの成果を出しており、鄭博士は主に防錆材料の研究と開発に従事し、成果をあげている。しかし、交流機関先において防錆機構を解明するための表面分析や腐食・防食の知識は十分とは言えない。一方、北海道大学はマグネシウム以外の金属材料腐食に関して、電気化学的および各種表面分析と観察法を用いて多くの業績をあげている。これらのことから、今回の共同研究を通じて、北海道大学においてはマグネシウム合金の研究に対する新たな知見を得ることができる。さらに、北海道大学の腐食防食の知識と青島海洋研究所のマグネシウムの表面処理とを融合することで、環境にやさしい防錆材料の開発や機構の解明や国際交流に発展させることを目指して実施した。
本交流においては、全学共同利用施設 光電子分光分析研究室の電子線後方散乱解析装置付きオージェ電子分光装置(AES)を主に利用した。この施設は北海道大学オープンファシリティ(北海度大学の施設を学内外の研究者が利用するための組織)と文部科学省ナノテクノロジープラットホーム事業にも参画している。なお、本施設にはAESの他に固体の表面分析や観察の装置としてX線光電子分光装置やエネルギー分散型X線分析装置付き走査電子顕微鏡、原子間力顕微鏡、走査型レーザ顕微鏡、試料断面を調整するためのクロスセクションポリシャー、精密切断機や研磨機がある。更に、感染症対策として施設の観察と分析装置はWEBにより画面共有して情報を共有しながら分析することが可能な施設となっている。
長引くコロナ禍のため来日しての研究と交流ではなく、WEBにより講演や分析を実施した。具体的な内容は以下のとおりである。
■2日間の事前WEB(Zoom)交流
1日目
参加者の自己紹介を行った後、事前交流の日程の確認や共同利用施設の説明などを実施した。午後、2月に使用予定の共同利用施設のAES装置を用いて、長期曝露試験サンプルを用いてデモ測定を実施した。
2日目
路博士と鄭博士による講義と学生の研究紹介、札幌で来日して実施する交流の打ち合わせを実施した。路博士からThe Powder Thermal Diffusion Alloying Mechanismに関する最近の研究成果について講義が、鄭博士から海洋研究所の紹介と防錆材料の研究と開発に関する講義が行われた。その後、参加している両国の学生の研究紹介、Graphene oxide coating for corrosion protection(Zhou氏)や金属カチオンの金属材料の腐食への影響、腐食抑制剤の腐食抑制機構の解明、低温の腐食機構解明のための電気化学測定結果などの腐食に関する幅広い内容で、活発な質疑応答が行われた。
■WEB(Zoom)交流
コロナ禍のため、2月に来日することが困難になったため、WEB(Zoom)により交流を実施した。当初、北海道大学で実験をおこなって、観察・分析用サンプルを作製する予定であったが、実施出来ないため、路博士から事前に数種類のサンプルを送付して頂き、北海道大学の共同利用施設で前処理、観察と分析を今回の期間中に実施した。具体的な実施内容は、以下の通りである。
1日目
今回の交流日程などを確認した後、マグネシウム合金の表面処理に関する研究の状況について意見交換を行った。
2日目
新型防食材料の研究の状況について鄭博士から説明があり、意見交換を行った。
3日目
新型防食材料の性能評価に関する実験に関して、どのような評価が必要かに関して意見交換を行った。
4日目
低温環境における研究について、坂入より日本(北海道)での腐食状況を説明した後、中国の状況について説明があった。今後、曝露試験(青島、中国各地、北海道各地)の実施を目指すこととした。また、来年度以降の交流、共同研究、学生の交流について話し合った。