2018年度活動レポート(一般公募コース)第288号
タイの高校生と共に学ぶ生物多様性と日本の先端科学技術
清真学園高等学校・中学校からの報告
2018年11月7日~11月13日の7日間の日程でタイのプリンセス・チュラポーン・サイエンス・ハイスクール・ピサヌローク (Princess Chulabhorn Science High School Phitsanulok)から高校生6名と教員1名をさくらサイエンスプログラムの支援で招致しました。同校は、タイに12校ある王女立の科学教育を重視する中間一貫校の1つで、SSH校である本校とは2016年に科学教育を通しての学術交流を図る提携を結んで以来、教員と生徒の国際交流を行っています。タイの教員と生徒が本校で交流するのが3年目となる今年は、昨年から生物多様性について共同研究を始めたこともあり、生物多様性と先端科学技術体験を結び付けられるようなプログラムとしました。
プログラム初日である11月7日、6名の高校生と1名の引率教員が成田空港へ到着。午後には本校生徒と一緒に芸術鑑賞会に参加した後、ホストファミリーと対面しました。
2日目には本校での交流を行いました。午前は、高校2年生の生徒を対象に本校教員とタイ教員が数学の授業を行う授業交流とSTEM教育としてパラシュートコンテストとマッシュマロ・チャレンジを両校の生徒がチームを組んで競い合いました。
午後には、本校中学の授業に参加してもらい、日本とタイの科学技術や文化を両校の生徒がそれぞれ発表しました。タイの生徒の科学に対する豊富な知識とタイが自然や文化的にも豊かであることに、本校の中学生はとても感心していました、タイの生徒は南北に長い島国である日本の多様な自然と文化を知り、双方共に学び多き有意義な時間を過ごすことができました。
3日目は、バスで本校生徒と共に茨城県自然博物館を訪問し校外学習を行いました。昨年度から本校とピサヌローク校は「コケの生物多様性」という研究テーマで共同研究を始めており、今回は学芸員による日本のコケの多様性についての講義の後、本校生徒と共に「コケの生物多様性」について博物館の敷地内での実習と共同研究の発表も行いました。
4日目は本校のSSH中間発表会で、両校の生徒が互いの共通言語である英語でプレゼンテーションとポスター発表をする学術交流をしました。タイの生徒の流暢な英語での「コケの生物多様性」についてのプレゼンテーションは研究内容・手法ともに素晴らしく、本校生徒にとって良い模範となるものでした。その後のポスター発表セッションでタイの生徒は「コケの生物多様性」・「IoT」・「ヒヤシンスから作るリサイクル可能なレンガ」・「パスカルの蝸牛形」の4つのテーマで本校生徒とSSH中間発表会来場者にポスター発表を行いました。タイの生徒のポスター前には多くの人が訪れていました。発表技術の上手さだけでなくテーマも日本の生徒とは異なった視点から研究されており、タイの生徒の科学に対する学ぶ意欲と関心の高さを伺えるものでした。
午後は、茶道部の協力による茶道体験を行いました。タイにもお茶を飲む習慣はあるものの、茶道には礼儀作法もあることに、タイの生徒たちは日本文化の深さを感じたようで、本物の茶道を日本で体験できたことにとても喜んでいました。
5日目は、それぞれのホームステイ先のホストファミリーと生活体験・文化体験をし、電化製品など生活の中にも科学技術や産業が結びついていること、古くからの伝統や文化を継承し、また新たな文化を創造して現在の日本を構築しているかを改めて感じ取ることができた1日を過ごしました。
6日目は、「科学が導く未来」というテーマで共同学習ができるように本校生徒と共に日本科学未来館を訪れるプログラムを組みました。科学技術と人間の生活の発展との関わり、そして、科学技術が導く未来について思い描けるように両国の生徒は未来館を見学し、学校に戻ってきてから「科学が導く未来」というテーマでディスカッションと発表を行いました。タイの生徒たちは科学についてより高い関心を持ち、より深く学んで未来に繋げたいと頼もしい抱負を述べてくれました。
最終日には、筑波大学を訪問し大学での講義受講と研究施設訪問をしました。午前は、石賀康博助教による「農業と植物病理と未来の農業」についての講義を受けました。持続可能な社会の実現のためには食糧問題は重要な課題であり、農業の生産拡大のために科学的に何を、どのようにすることができるかというテーマに農業輸出大国のひとつであるタイの生徒たちは非常に高い関心をもち、たくさんの質問をしていました。研究室では最新の設備で病原菌を実際に見ることができたことにタイの生徒たちはとても喜んでいました。
午後には、「藻類バイオマス・エネルギー・システム」について吉田昌樹助教にプログラムを組んでいただきました。「藻類バイオマス・エネルギー・システム」についての講義の後、研究所内の施設で実物を見ながら説明を受けました。タイの生徒たちは、先端技術が実用化に向かっていること、藻類からエネルギーだけでなく化粧品がつくられることに驚き、またタイでは藻類バイオマスはまだ発展途上の研究分野であることを知り、将来は科学の分野でタイの社会に役立つ研究がしたいという願望を持つ生徒たちにとってひとつの方向性を示す体験となりました。
プリンセス・チュラポーン・サイエンス・ハイスクール・ピサヌローク校では、「科学をどう社会に役立てるか」「環境にどう配慮するか」「地域に根差しているか」を科学研究のテーマに必ず入れるようにしています。どのような生物からどのように環境に配慮した製品を作ることができるかという研究は、数年来取り組んできており、最近ではタイでも関心が高まってきているプラスチックのリサイクルについての研究を始めたとのことで、今後は本校との新たな共同研究のテーマとして共に取り組んでいく予定です。
タイ王国のプリンセス・チュラポーン・サイエンス・ハイスクール・ピサヌローク校との国際交流は共同研究を開始したことでこれまでより深い交流をすることができました。さくらサイエンス支援によるプログラム実施にあたり、JSTをはじめ、ご協力して頂いた関係機関・関係者の皆様に改めて感謝を申し上げます。