2018年度 活動レポート 第205号:東京海洋大学

2018年度活動レポート(一般公募コース)第205号

海洋科学技術が被災地の水産業復興に与えた影響を学ぶプログラム

東京海洋大学グローバル教育研究推進機構
教授 小松 俊明さんからの報告

東日本大震災は、三陸海岸沿岸部においても多大な被害をもたらしました。漁港の街、宮城県気仙沼はその中でも被害の大きかった漁港の一つとして知られており、サメの水揚げ量日本一を誇る魚市場も壊滅的な打撃を受けました。東京海洋大学は気仙沼市と連携しており、三陸サテライトを置いています。東日本大震災以後、気仙沼の漁業、魚市場、水産加工業等の復興が進んでいますが、アジア学生10名(5大学から各2名)を連れて、2015年以来、被災地の第一次産業の復興状況のヒアリングを進めてきました。2018年はさくらサイエンスプログラム複数年度採択の最終年度です。

10月29日早朝、気仙沼魚市場、漁協を訪問しましたが、九州からカツオを追いかけながら北上してきたカツオ船と、年内最後のカツオ漁を気仙沼沖で終えたタイミングに遭遇しました。インドネシアからの外国人船員が多いことに注目し、漁協にヒアリングをした結果、復興を遂げつつある漁業の現場では、今後もますます外国人労働者の受け入れ拡大が見込まれていることが確認できました。また、気仙沼近海で獲れる主要な魚種(カジキマグロ、サメ、その他)と魚市場でオークションされるシステムを目の当たりにしました。タブレットで価格の札入れがされて、それぞれ落札されていく流れも学ぶことができました。

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気仙沼市場にて

気仙沼では、サバ缶を作る水産加工工場にも訪問しました。今年はサバ缶が大変売れているそうですが、震災直後、その後の復興、機械の自動化、労働者の確保、そして食の安全や商品開発に至るまで、社長や工場長から詳しく解説を頂きました。アジア学生は、日本の工場管理に関心を示しており、多くの質問が続きました。

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ミヤカン工場にて

東京に戻り、中央水産研究所を訪問し、海と食卓を繋ぐ海洋科学の貢献について、研究者から教えて頂きました。アジア学生の多くは、水産や海洋研究、食品科学研究を専攻しており、自分たちが日ごろ学んでいる内容が、どのような形で先端研究と紐づいているのかを考える機会を得ました。

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中央水産研究所にて

また、海洋研究開発機構にも訪問し、東日本大震災後にどのような海洋環境の変動と水産資源への影響があったかを考える機会をいただきました。有人潜水調査船「しんかい6500」の実機がメンテナンスされている現場に遭遇し、アジア学生の間にどよめきが起きました。海洋研究に関わる学生達にとって、「しんかい6500」の知名度は高く、日本の科学技術の高さに関心を持っていました。

プログラム後半では、三陸海岸からずっと海岸線を南下した位置にある千葉県房総半島の先端にある館山市を訪問しました。ここでは早朝に行われる定置網漁に参加し、東日本大震災が地元漁業に与えた影響について考える機会がありました。定置網漁の手法を学べたことは収穫が大きかったですが、さらには獲れた魚のうち市場で流通される魚は何か、また地元で消費される地魚について知見を得ました。

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保田定置網漁場にて

プログラム全体を通じて、来日したアジア学生とアジアに派遣された経験のある学生達との間で深い交流がありました。日本とアジアの学生が一緒にスーパーサイエンスハイスクールである文京学院大学女子高等学校(東京都文京区)を訪問し、高校2年生の生徒を相手にアジア学生が授業を行いました。

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文京学院大学女子高等学校での出前授業

また、東京海洋大学では、アジア5大学説明会も実施しました。東京海洋大学の海洋研究に関するラボ訪問も計画されたことで、今後も継続的にアジア学生が日本の研究室とのパイプ役となってくれることが期待できます。

2011年3月11日に不幸にも起きてしまった東日本大震災の被災地を訪問したアジア学生たちは、日頃自分たちが学ぶ科学技術の力が震災復興のスピードアップに多大な貢献をしていることについて身をもって感じてくれたに違いありません。東京海洋大学と5大学の海洋研究の学生ネットワークがさらに深まったことで、今後も継続的な情報交換や人的交流、そして共同研究がさらに前進することを期待します。