2018年度 活動レポート 第190号:富山大学

2018年度活動レポート(一般公募コース)第190号

韓薬研究に新たな展開をもたらす人材育成を目指した韓国若手研究者との研究交流

富山大学和漢医薬学総合研究所からの報告

「さくらサイエンスプログラム」により、平成30年10月15日から10月24日まで、韓国・世民大学バイオ製薬産業学部から4名の大学院生と引率の教員として同大学バイオ製薬産業学部長が来日しました。本プログラムは、漢方薬で用いられる薬用植物の化合物抽出液と単離・精製した化合物の生物活性を比較し、単離した化合物が化合物抽出液よりも高い活性を示すことばかりでなく、逆に単離した化合物の生物活性が化合物抽出液よりも減少してしまうことを実体験することで、漢方薬の治療効果が多成分によってもたらされていることを理解することを目的に実施しました。

初日は、まず、和漢薬製造販売の老舗である池田屋安兵衛商店を見学しました。池田屋安兵衛商店では、丸薬作りを体験し、均一な丸薬を作る難しさを体験しました。その後、本事業での実験の打ち合わせを行いました。

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池田屋安兵衛商店での丸薬作りの体験

2日目は、漢方薬配合生薬基原植物からの化合物粗抽出液の作成を行いました。また、実験の待ち時間に、本学の民族薬物資料館を見学し、薬都富山の歴史と伝統、和漢薬を初めとする世界の伝統薬物や漢方薬について学びました。漢方薬と韓薬には共通点も多くありますが、その相違点について展示資料を通して学ぶことができた1日となりました。

写真2
抽出液の作成

3日目からは、抽出液からの化合物の粗精製を始め、6日目まで化合物の単離と精製を続けました。6日目までには、4種の化合物を精製することができ、6日目の午後には、2日目に作成した漢方薬配合生薬基原植物からの化合物粗抽出液及び6日目までに単離・精製することができた4種の化合物について、ヒトがん細胞に対する細胞毒性試験とメラニン産生抑制活性試験を開始しました。本学研究員がヒトがん細胞やメラニン細胞への粗精製液投与の方法を実演した後、招へい者らがその操作を行いました。学生たちはピペット操作が思うようにできないながらも、これらの活性試験の操作に慎重に取り組んでいました。

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化合物の精製
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細胞毒性試験の準備

7日目は、医薬品製造メーカーである廣貫堂の資料館を見学しました。招へい研究者らは、富山の置き薬について聞くのは初めてで、そのシステムに驚いていました。薬都富山の歴史をさらに深く学ぶ良い一日となりました。

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廣貫堂資料館見学

8日目は、精製した化合物の化学構造を決定するため、まず、NMRという機械を用いて化学構造に関するスペクトル情報を収集しました。その後、スペクトルデータの読み方の講義を受けながら、招へい研究者ら自身で化学構造の決定に取り組み、精製した4種の化合物のうち、1種の化合物について化学構造を決定することができました。しかし、他の化合物の化学構造は複雑であったため、本事業の実施期間中に化学構造を決定することはできず、NMRスペクトルから化学構造を決定するための講義がさらに必要なことが課題として残されました。

9日目には、6日目の午後に開始した抽出液と精製化合物のヒトがん細胞に対する細胞毒性試験とメラニン産生抑制活性試験の結果を確認しました。粗精製液には強い細胞毒性が認められました。しかし、精製した化合物は、1種が弱いながらも細胞毒性を示すものの、他の化合物には細胞毒性が認められないことが確認され、招へい研究者らは、抽出液が強い細胞毒性を示す要因となった化合物はなんであったのかを議論していました。

最終日は、本事業の成果の報告会を行いました。その後、修了式で森田教授から各人に修了証が授与されました。また、アンケートでは、全員が今回の訪日に対して「非常に満足」と答えてくれました。「さくらサイエンスプログラム」により、とても有意義な国際交流の機会をいただいたことに、心より感謝申し上げます。