2018年度活動レポート(一般公募コース)第083号
中国との基礎理学における人材育成ならびに学術交流基盤の持続的構築
奈良女子大学理学部化学生物環境学科環境科学コース
高須夫悟さんからの報告
平成30年9月10日から同年9月19日にかけて、奈良女子大学の協定校である南京大学の生命科学院から大学院生10名と教員1名を招へいし、さくらサイエンスプログラムの科学技術体験コースによる学術交流プログラムを実施しました。
具体的な活動内容としては、受入れ機関所属の教員による、フジツボ類の性システムの進化ならびに農業害虫でもある外来種リンゴガイの生物防除に関する最新の研究成果の紹介、保全生物学に応用可能な空間メタ個体群動態に関する最新の研究成果の紹介、非線形力学系としての個体群動態の数理と数値シミュレーション実習、IT技術を用いた動物個体追跡方法の紹介、春日山原始林など奈良公園付近のフィールド実習、そして環境科学コース各研究室訪問、を行いました。
南京大学からの参加者は皆、野生動物を研究対象としたいわゆるフィールド生態学を専門としていることから、本プログラムで企画した内容は参加者の興味を大きく引くものでした。特に、奈良公園付近のフィールド実習では、倒木など台風21号が残した爪痕を間近に見つつ、奈良の植物相やシカの行動様式を存分に観察することが出来たことは大変満足がゆくものでした。
さらに、計算機を用いた個体群動態モデルの数値解析や、IT技術を用いて動物各個体の移動を追跡し、位置情報の時系列データを自動的に得るアプリケーションの開発方法についての解説を行いました。今後、生態学を含む各方面で進むと思われる数理的手法とIT技術の応用を今後活用してもらう良い機会となったと感じています。
本プログラムでは、講義・実習・研究紹介に加えて、南京大学チーム参加者が各自取り組んでいる研究について30分程度の時間を掛けて発表する時間を設けました。この発表会には本学学生も参加し、質疑応答を通じて研究の進め方や英語での議論に慣れる大変貴重な機会となりました。
10日間にわたる本プログラム全般に奈良女子大学の学生も参加し、南京大学の学生と共に英語による講義・実習に取り組みました。奈良女子大学は教育の国際化にも力を入れていますが、本プログラムは日本人学生にとって英語で聞き・考え・自分を表現する貴重な体験になるとともに、グローバル化の意識の涵養につながったと感じています。学術的な交流にとどまらず、本学学生による奈良案内や、キャンパス内での夕食バーベキュー、懇親会を通じて本学学生との交流も進み、日本の大学生像を知ってもらう・隣国中国の大学生の実像を知る良い機会となりました。
台風21号の影響で関西空港が9月4日以降閉鎖されたため、南京大学チームの来日・離日ルートが急遽変更せざるを得なくなるなど、受入れ側としては予想外の出来事がいくつか重なりましたが、JSTの柔軟な対応により無事にプログラムを終了することが出来ました。
本プログラムは南京大学側ならびに本学の担当教員の間でも非常に評価が高く、来年度以降の両大学間の持続的な交流基盤を形成することが出来ました。本プログラムを支援して頂いた「さくらサイエンスプログラム」に厚く御礼申し上げると共に、今後も是非とも本事業を継続して頂けることを期待しています。