2016年度活動レポート(一般公募コース)第141号
熱帯域の生態系劣化防止に貢献する若者を養成する
静岡大学農学部からの報告
静岡大学農学部はさくらサイエンスプログラムの支援を受け、2016年9月23日から10月2日まで”Field seminar in temperate forests around Mt. Fuji”を開催し、東南アジア4か国(インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム)の6大学から、10名の修士学生を受け入れました。
このメンバーに加えて、独自に3か国(中国、タイ、イギリス)3大学からの3名の学生を招へいし、本学学生5人を含め合計18人の学生を対象として、森林生態系保全に関する集中セミナーをおこないました。
主に生態系サービスの評価方法・レジリエンス能力を高める植生管理手法をトレーニングし、熱帯域の生態系劣化防止に貢献する若者を養成することを目的としました。
また主に熱帯をフィールドに生態研究する若者に、富士山周辺の多様なバイオームでの実習や、生態系移行帯の生態情報を基にした討論型の生態系管理設計演習を行うことで、多様な生態現場への理解を深めることを狙いました。
さらに、7か国の学生が共通のフィールドで実習することで学生間の相互刺激を高め、学生間ネットワークの形成も重要な狙いでした。
9月24日(静岡大学天竜フィールドにて)
午前は、日本の多様な植生タイプを紹介し、それぞれのバイオームでの生態的トピックに関する講義、および、タイから招へいしたDokrak博士による長期生態系モニタリングに関する講義を行いました。
午後は、樹木の葉のガス交換速度やクロロフィル蛍光反応による植物ストレスの検出法について、実験を行いました。夜は各国の森林生態系の紹介をプレゼンテーションさせ、相互討論を行いました。
9月25日(静岡大学天竜フィールドにて)
午前は単純人工林の生態的劣化の問題と、人工林から照葉樹天然林に再生する生態的修復についての取り組みを現地で紹介し、その評価手法について講義しました。
UAVによる藪群落の計測についても実演しました。午後は、樹液流センサーの作成を実習し、廉価で樹液流が計測できる技術を講習しました。
9月26日(静岡大学天竜フィールドにて)
各学生の研究内容のプレセンテーションを行い、相互に議論を行い今後の解析方法に関するアドバイスを行いました。学生同士で研究上の悩みを交換し、互いの情報を交換し合う場となりました。
また前日作成した樹液流センサーと染色伐採法による水の移動速度を比較して、計測データが一致しているところを経験し、多くの招へい学生は興奮していました。
9月27日(南アルプスフィールドにて)
南アルプスフィールドの移動中、大井川を遡上する過程での多くの茶園の景観を見ながら、茶の生産技術について講習し、茶を試飲しながら、ひとときを楽しみました。
南アルプスフィールドでは、山地崩壊のメカニズムについての講義の後に、25haに及ぶ大規模斜面崩壊を見学しました。また斜面崩壊の緑化技術や、崩壊の進行過程の計側方法について、現場で実物を見ながら学習しました。
9月28日(南アルプスフィールドにて)
種多様性の高い太平洋側ブナ林の生態構造、および林床のタケの開花現象が、森林の維持メカニズムに関わっていることを紹介しました。
また生物多様性が生態系サービスに及ぼす貢献(BEF)について、研究プロジェクトの実例を現場で見せることで、多様な手法でのアプローチを紹介しました。森林のBEF研究の最前線について伝え、研究上の問題点について議論を深めました。
9月29日(富士山北麓の森林生態系にて)
富士北麓にある国立環境研究所のカラマツ林の二酸化炭素フラックスモニタリングサイトを視察し、渦相関法を用いたモニタリング手法や、生理計測によるアプローチ手法について学習しました。
また静岡大学と国立環境研究所の共同研究として、樹液中の炭素動態や細根バイオマスの動態についての測定手法について紹介しました。
また青木ヶ原樹海で溶岩上に成立した温帯性針葉樹林の生態を観察し、針葉樹林の更新過程を学習しました。
9月30日(富士山南麓の森林生態系にて)
五合目周辺の森林限界において、森林限界の生態系の特徴について講義を行いました。
森林限界が上昇している現状を説明し、上昇理由について現地の観察や空中写真情報を用いて考察させ、現在の生態系動態の理解に時間軸をさかのぼる幅広い考察が重要であることを、学生全員に共有させました。
亜高山帯林下部ではニホンジカの食害による生態系劣化が深刻である現状を観察させ、各国の野生動物の管理について議論を行いました。
10月1日(静岡キャンパス、および三保海岸林にて)
地上レーザースキャナーによる森林群落構造の測定や、葉分布構造の測定について実演し、データ解析手法を学びました。また三保の海岸林におけるマツノザイセンチュー病の対策や海岸林の保全について学習しました。
アフターケアー
参加学生内のメーリングリスト等で情報交換しています。また本プログラム参加学生を11月にマレーシアのプトラ大学と共同で熱帯雨林やマングローブ林における野外セミナーに招へいし、異なる生態系での学習を行い、学習効果と交流促進を高めています。