2015年度 活動レポート 第41号:東京女子医科大学東医療センター内科 石川元直 助教

特別寄稿 第41号

在宅医療について中国・青海大学の大学院生たちが学ぶ

執筆者プロフィール

[氏名]:
石川 元直
[所属・役職]:
東京女子医科大学東医療センター内科助教
 
プログラム
1日目 成田空港到着
2日目 東京女子医科大学東医療センター見学、オリエンテーション
3日目 東京女子医科大学東医療センター実習
4日目 東京大学医学部附属病院見学、議論
5日目 やまと診療所で訪問診療同行
6日目 東京女子医科大学東医療センターで訪問診療同行
7日目 成果報告会および意見交換
8日目 帰国
 

プログラムの概要

東京女子医科大学東医療センターは、2009年から京都大学と中国青海省にある青海大学と「人の生老病死と高所環境‐高地文明における医学生理・生態・文化的適応」というプロジェクトを共同で行っていました。プロジェクト終了後も当院から青海大学へ毎年講師として招聘していただくなど、人的交流が盛んです。2015年に私が「日本における在宅医療の現状と課題」というテーマについて青海大学で講演する機会を得ましたが、中国にはない先進的な取り組みのため興味を強くもったようでした。

中国では高齢者人口が増加し、その福祉を取り巻く現状において福祉環境整備が急務となっていますが、地方都市である青海省では在宅介護サービス事業は存在しません。日本は世界に先駆けて超高齢社会に突入しており、在宅医療の専門性は世界でもハイレベルに達しています。東京女子医科大学東医療センターは491床の急性期病院ですが、20年前より在宅医療部を有し、訪問診療もおこなっています。

近隣の診療所や訪問看護ステーションとも深い連携をとっています。今回は当院がホストとなり、2016年3月6日から13日の日程で、在宅医療や老年医学に関する日本の取り組みを紹介することを目的として、さくらサイエンスプログラムの支援を頂き、青海大学老年科から教員1名、大学院生4名を招聘しました。

東京女子医科大学東医療センター在宅医療部にて

院長・看護部長との交流会

実施内容について

初日は東京女子医科大学東医療センターの見学のあと、私があらためて日本における在宅医療の現状について講義をし、訪問診療に関するオリエンテーションをおこないました。その後、当院在宅医療部の小笠原看護師から、自身の豊富な経験をふまえ、たくさんの写真を用いて訪問看護師の仕事について説明がありました。

一度に訪問診療に同行できる人数には限りがあるため、翌日以降は東京女子医科大学東医療センター内科での病棟実習、東京女子医科大学東医療センター在宅医療部での訪問診療同行、板橋区にあるやまと診療所での訪問診療同行と、3つのグループにわかれて実習をおこないました。

在宅医療は我が国が誇るべき医療分野の一つであり、医師、看護師、ケアマネージャー、ソーシャルワーカーなど専門職が力を合わせ、高齢者一人ひとりの身体機能、生活状況に合わせて適切なサービスをおこなっているということに感銘を受けたようでした。

3月9日には東京大学医学部附属病院を訪問し、病院見学のあとに在宅医療学拠点の山中崇先生からアジアにおける在宅医療の展望というテーマで講演していただきました。質疑応答やその後の食事会では、国内外の諸問題について活発な意見交換がありました。

夜は連日のように懇親会をおこない、若手医師同士の交流も深まったようです。また、空いた時間には精力的に池袋や秋葉原、浅草などに出かけ、医療以外の日本文化についても理解できたようでした。

東京大学医学部在宅医療学拠点で熱心に議論する様子

やまと診療所にて

若手医師との懇親会

今後の展望

中国では今後、日本以上のスピードで高齢化社会に突入すると予想されています。大きな病院へなかなか入院できないこと、入院費が高すぎること、都市部と農村部の医療格差などがすでに問題となっており、在宅医療は必要性が高まるだろうことは容易に想像されます。地域社会に根ざした在宅医療サービスを提供するには、実際に現場で何が行われているかを現場に直接でて、学習する必要がありますが、今回の経験が一助になることを願っております。

今回の8日間の交流を経て、東京女子医科大学東医療センターと青海大学の相互理解は一層強固になったと感じており、支援を頂いたさくらサイエンスプログラムには深く感謝しています。院内ではこうした国際交流の重要性を自覚している職員の割合は高くないと感じていますが、今回の交流には当院の研修医や若手医師に積極的にかかわってもらい、皆、多少なり国際交流に対する意識が高まったようです。

今回の交流を契機として、2016年度に当院の看護部と青海大学附属病院看護部の交流プロジェクトが生まれました。院内に国際交流の重要性を認知してもらえるように、今後も定期的にこうした交流活動を続けていきたいと考えております。