2014年度 活動レポート 第9号:一般財団法人リモート・センシング技術センター 吉田豪 鳩山事業所所長

特別寄稿 第9号

課題の解決を目指したリモートセンシング技術研修
吉田 豪

執筆者プロフィール

[氏名]:
吉田豪
[所属・役職]:
一般財団法人リモート・センシング技術センター鳩山事業所所長
[略歴]:
1994年 神戸商船大学大学院海洋機械管理学専攻終了
同年、財団法人リモート・センシング技術センター入社
2013年4月より現職
 

さくらサイエンスプログラム実施内容について

受入機関 一般財団法人 リモート・センシング技術センター
送出し国・機関 ミャンマー:通信・情報技術省(MCIT)
ベトナム:農業農村開発省(MARD) /天然資源環境省(MONRE)
タイ:タイ気象庁(TMD)
インドネシア:農業省農業研究開発庁(IAARD)
マレーシア:マレーシア森林研究所(FRIM)
台湾:台湾国立中央大学 宇宙リモートセンシング研究センター(CSRSR)
招へい学生数 10名(学生6名、研究者4名)
招へい教員などの数
実施した期間 10日間(2014/10/20 ~ 2014/10/29)
 

1.さくらサイエンスプログラムのプログラムの目的について

一般財団法人リモート・センシング技術センターは、人工衛星等を利用して、地球の資源、現象等について探査するリモートセンシングに関する基礎的かつ総合的研究開発を行うとともに、その他の宇宙開発利用に関する普及啓発を行い、社会経済の発展および国民福祉の向上に寄与することを目的に設立された財団です。
さくらサイエンスプログラムにおいては、日本が世界に誇る「宇宙技術」をテーマに、特に近年アジア各国において関心が高まっている、環境分野等におけるリモートセンシング技術の利用について、講義、実習および関連施設見学を通して最先端の現場に触れていただくとともに、各機関が有する課題へアプローチし、各自の専門分野において本技術が有効であることを体感していただけるよう、プログラムを設定しました。
招聘者の選定にあたっては、かねてより当財団が実施してきた研修業務等と通じて交流があり、特に積極的に本分野に取り組んでいる機関へ依頼し、若手研究者および学生を推薦いただきました。

2.実施内容について

当財団では、10日間の招聘期間の間に主に以下のようなプログラムを実施いたしました。

【講義・実習】

「リモートセンシングの基礎」(講師 東京電機大学 近津博文教授)
「グローバルセンサーの活用」(講師 当財団 五十嵐 保)
「衛星データの活用」(講師 当財団 冨山 信弘)

【施設見学】

独立行政法人宇宙航空研究開発機構 地球観測センター/つくば宇宙センター
独立行政法人産業技術総合研究所 サイエンススクエアつくば
日本未来科学館

【その他】

「小江戸川越 町並み散策」
「東京電機大学での交流会の開催」

講義および実習では、リモートセンシングの基礎を網羅的に学んでいただけるよう、光学センサー、レーダーセンサー、グローバルセンサーの主要な3分野についてそれぞれ個別のプログラムを実施いたしました。

光学センサーに関するプログラムについては、東京電機大学理工学部近津博文教授の全面的なご協力をいただきました。特に土地被覆分類図を作成する実習の際には、近津教授の研究室に在席している学生にも助力をいただき、大変細やかなサポートが実現できました。衛星で観測した結果と実際の土地の利用状態が重なりあうことを体感できる内容となっており、それが分かった瞬間の受講生の表情がとても印象的でした。実習を行い、生のデータを触り、結果が実態と一致するという体験型の学習は、受講者の達成感を得られる有益な手法であると改めて実感いたします。
また東京電機大学ではプランの関係者の他、大学および当財団鳩山事業所の所在地である埼玉県鳩山町の町長にもご参加いただき、交流会を開催いたしました。大変活発な意見交換が行われ、今後の交流への期待を感じさせるものでした。東京電機大学の学生の中には、初めて外国語で話す機会を得たという学生もおり、微力ながら国内の学生の国際交流にも寄与できたのではと考えています。

東京電機大学における講義風景

実習風景 - 学生とともに

鳩山町小峰町長を交えての交流会

当財団における講義風景

当財団ではレーダーセンサー、グローバルセンサーに関するプログラムを実施いたしました。実習では「課題の解決を目指す」ために各人の関心分野である「洪水」、「森林」、「農業」の3つのサブグループに分かれて解析研修をするという、実践的な内容となりました。帰国後も研修内容を活用しやすいよう教材やツールに工夫をし、特に実習に使用するツールについては入手が比較的容易なものを中心として対応いたしました。帰国後のデータ等の活用および教材等の再利用については、講義中にもよく質問がありました。帰国後も使っていけるようにという配慮は適切であったと考えています。

日本の技術に触れていただくために組み込んだ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)および産業技術総合研究所(AIST)では、施設見学専門の英語案内ご担当にアテンドいただきました。JAXAの実物大の人工衛星や本物のロケットエンジン、「きぼう」日本実験棟の実物大モデル、AISTのセラピーロボット「パロ」、ヒューマノイドロボットなど、日本の技術を間近に見ることができ、見学中は活発な質疑応答が行われました。

JAXA地球観測センター施設見学

JAXAつくば宇宙センター施設見学

また、今回の当財団のプランは非常に精力的な日程となっておりましたが、少しでも日本文化に親しんでいただけるよう、小江戸川越の散策や東京都内の観光案内等の内容も組み込みました。連日の講義で招聘者の皆さまにとっても、たいへんハードなスケジュールだったと思うのですが、皆さま講義終了後にもフェイスブック等で活発な情報交換をしながら積極的に街に出ていたようです。プラン終了時に沢山の日本の写真を見せていただきました。中には神前結婚式の行列に偶然出くわしましたと嬉しそうに動画を見せてくださった方もおりました。日本に親しんでいただくというもう一つの目的も達せられたのではないでしょうか。

3.今後の国際交流について

今回の当財団のプログラムでは、6カ国から招聘者を招く形で実施いたしました。また、さくらサイエンスプログラムでは広く「40歳以下」という募集枠が設定されたことから、幅広い世代の方たちに集まっていただくことができました。本プランは日本と各招聘国との交流に留まらず、同じ分野に興味を持ち様々なアプローチで取り組んでいる方々にとり、国境、世代を超えた国際交流の場を作る貴重な機会となりました。このような場を日本がイニシアティブを取って取り組んでいけるということは大変重要と考えます。
様々なバックボーンを持った複数機関から招聘者を招く方法は、研修のレベル設定が難しく、研修中の学習補佐も必須となり、事前の調整等も含めプログラムを立案する上では実施側の経験や知識が必要となりますが、この形でしか得られないものがあり、当財団では今後も同様の国際研修プランに積極的に取り組んでいきたいと考えています。

4.さくらサイエンスプログラムに対する希望と期待

さくらサイエンスプログラムは、今後も継続的に実施されることを希望いたします。
招聘者の方たちは、皆さま笑顔で帰国されました。10日間というささやかな期間ではありましたが、今回のプログラムを通じて得られたものは単なる技術研修成果に留まらず、アジア各国において今後中心的な役割を担っていく皆さまに日本に対する親近感および信頼感を醸成することに大変役立ったことを実感しています。
継続的な実施により、本プランが日本の国際的なプレゼンスの発揮に貢献することを期待いたします。