特別寄稿 第13号
さくらサイエンスプログラムで魅力ある東京理科大学をアジアへ発信し相互交流を実施
藤嶋昭
執筆者プロフィール
- [氏名]:
- 藤嶋昭
- [所属・役職]:
- 東京理科大学・学長
- [略歴]:
- 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。
神奈川大学工学部講師、東京大学講師、助教授を経て東京大学工学部教授、東京大学大学院工学系研究科教授。
2003年 東京大学大学院工学系研究科教授を退官、(財)神奈川科学技術アカデミー理事長、東京大学名誉教授、東京大学特別栄誉教授。
現在、東京理科大学 学長。
さくらサイエンスプログラム実施内容について
受入機関 | 東京理科大学 |
送出し国・機関 | 浙江大学(中国)、西安交通大学(中国)、国立建設大学(ベトナム)、昆明理工大学(中国)、全南大学(韓国)、チェンマイラチャパット大学(タイ)、東北師範大学(中国)の合計7カ国 |
招へい学生数 | 合計54名(ポスドク、研究者を含む) |
招へい教員などの数 | 合計10名 |
実施した期間 | 合計56日 |
1.さくらサイエンスプログラムのプログラムの目的について
東京理科大学はかねてよりアジア諸国の著しい発展と躍動感あふれる学生諸君を含めた人々の活発な行動力に注目し交流を続けてきている。
例えば、本学の特色ある研究として火災科学があるが、東アジア地域に対して火災安全工学の教育活動による交流を行ってきた。
また、私本人がこれまで研究を行ってきた光触媒においては過去30年以上に渡って、中国、韓国、インドネシア、タイ、インドをはじめとした国々の留学生とともに楽しく研究してきており、今も良好な交流関係を持っている。
さらに平成25年度には光触媒のメッカを目指して本学野田キャンパスに光触媒国際研究センターを設置し、魅力ある大学づくりと世界への情報発信を行っている。
そのような折、科学技術振興機構よりさくらサイエンスプログラムの事業計画を知り、その事業目的に大きく賛同した。これからも益々の発展を遂げるであろうアジアの青少年と日本の学生が交流を深めることは、日本の未来にとって極めて重要である。
本学でも魅力ある大学としてアジア、世界に紹介し、優秀な学生を招へいしたいと考えていたことから、大学を挙げて本事業への積極的な応募を呼びかけ、実際に平成26年度には7件の採択をいただいた。
2.実施内容について
東京理科大学で採択された7件のうち4件が中国であった。それ以外にも本学のすばらしい施設を見学したいということで、本事業で他機関によって採択となった中国の高校生、大学生達が多数来てくれた。
さくらサイエンス・ハイスクールプログラムで採択された第1陣の中国からの高校生80名が本学の数学体験館などに来てくれた時は、神楽坂キャンパスで秋山仁教授に講演をしてもらった。
数学体験館で説明する秋山仁教授(左)と集合写真
また、私が以前から上海大学の客員教授を務めていたこともあり、一般財団法人霞山会が受け入れ機関をつとめた上海大学の訪日団が来たときは、光触媒国際研究センターにも来てもらい講演会と見学会を実施した。
光触媒の歴史と発展を紹介し、農業へも展開している事例を見てもらうなど最先端の研究に大変興味をもってもらった。次の写真がこの時のものである。8月の炎天下の中ではあったが若い大学院生たちの笑顔が印象的であった。
さらにこの上海大学の董永杰先生の計らいで、私自身が同年12月22日から2泊3日で上海大学に招へいしてもらい、上海大学の学長との面談と特別講義を行い、非常によい交流の機会になったと思っている。
その他、本学で採択されたプログラムについては時間の許す限り、来日していただいた代表団の方々にお目にかかるようにし、時には講演等も行った。
私自身が実施責任者となって採択された韓国の全南大学訪問団に対しては、私がセンター長を兼務している光触媒国際研究センターを中心に交流計画を実施した。
すでに我々のセンターでは平成26年2月に、全南大学触媒研究所と学術交流覚書を締結しており、その関係から、同年5月には私たち教員が韓国の光州にある全南大学を訪問していた。
この覚書では教員の交流及び共同研究を主目的としていたため、JST主催のさくらサイエンスプログラムの支援により、学生の交流も開始することができた。今回の全南大学の学生の方々の訪日では、日本発の技術である光触媒について理解を深め、東京理科大学の新しくできた葛飾キャンパスや神楽坂キャンパスにある本学の前身である東京物理学校の木造校舎を復元した近代科学資料館などにも立ち寄ってもらい、日本のすばらしさを体感してもらった。
また、私が以前に理事長を務めていた神奈川科学技術アカデミーにある光触媒ミュージアムや日本科学未来館その他、本学で採択されたプログラムについては時間の許す限り、来日していただいた代表団の方々にお目にかかるようにし、時には講演等も行った。
センターの日本人学生と共に行った光触媒の共同実験では、学生間で積極的な会話を持ち、自分たちで作製した光触媒材料をその場で効果を確かめるなど、共同作業のすばらしさを体感してもらうことができた。
私の教え子で今は中国の東北師範大学の教授となっている張昕彤君が来てくれた時も、光触媒国際研究センターを中心に見てもらい、学生間の交流をもった。
3.今後の国際交流について
アジアからの訪問団は各チームともおよそ10日間以内の来日であり、移動も含めるとかなり厳しいスケジュールであった。特に本事業は初来日の学生諸君を対象としているので、慣れない海外での生活に加え、慌ただしい見学や共同実験はさぞかし負担となったと心配している。
それにも係わらず、帰国してからいただいたアンケートやメールを見ると、本事業と日本での経験に文字では表せないほどの感謝の気持ちが込められていた。 このすばらしいさくらサイエンスプログラム事業をさらに一層発展させるために、世話をした日本人学生を中心に、相手側の大学へ派遣することを計画し、実際に、私自身が直接関与した韓国の全南大学と中国の東北師範大学へ引率教員とともに理科大の学生を12月と1月に派遣した。
これこそ真の国際交流となるものと考えたからである。つまり、アジアからの訪問団とともに日本で行動を共にした日本人学生を今度は、送出し機関へ行くという双方向交流事業を本学独自の取組として行った。
これでわかったことは押し付けによるアピールではなくおもてなしの心がいかに大事かということであった。例えば、寺島千晶准教授が報告しているように、真の意味での学術交流をしていくには、交流のきっかけとなったさくらサイエンスプログラム事業と双方向交流事業などを通して、親交を深める継続的な交流が必要ということである。