特別寄稿 第12号
大阪大学接合科学研究所、タイ・インドネシア・ベトナム・フィリピン・マレーシアからの参加者と共同研究、科学交流を実施
勝又 美穂子
執筆者プロフィール
- [氏名]:
- 勝又 美穂子
- [所属・役職]:
- 大阪大学接合科学研究所・特任准教授
- [略歴]:
- 米ピッツバーグ大学国際公共政策大学院修了。国際開発修士。
平成24年度より大阪大学接合科学研究所で実施している「広域アジアものづくり技術・人材高度化拠点形成事業」、特任准教授。東アジア、広域アジア地域での連携ネットワーク形成、交流、海外インターンシップなどを担当。
さくらサイエンスプログラム実施内容について
受入機関 | 国立大学法人大阪大学 接合科学研究所 |
送出し国・機関 | モンクット王トンブリ工科大学(タイ)、カセサート大学(タイ)、マラヤ大学(マレーシア)、インドネシア大学(インドネシア)、ハノイ工科大学(ベトナム)、デ・ラ・サール大学(フィリピン) |
招へい学生数 | 共同研究活動コース10名 科学技術交流活動コース10名 |
招へい教員などの数 | なし |
実施した期間 | 共同研究活動コース:2014年11月10日~29日 科学技術交流活動コース:2014年11月16日~22日 |
1.さくらサイエンスプログラムのプログラムの目的について
当研究所では平成24年度より文部科学省の支援を受けて「広域アジアものづくり技術・人材高度化拠点形成事業」を展開してきました。
この事業では、広域アジア地域における各大学との学術交流協定の締結やワークショップ、シンポジウムの開催、また国際共同研究の実施などによる連携強化を図っています。更に、各連携大学と各国日系企業の協力を得て、連携大学と本学学生合同の現地インターンシップの実施などを行っています。
送り出し機関である各国大学とはこれまでにも国際共同研究の実施、ワークショップやシンポジウムの開催による研究活動の共有など、活発な交流が行われてきました。
また、モンクット王トンブリ工科大学以外の5校とは各国現地で活動する、ものづくり日系企業における現地インターンシップの実施においても連携しており、ものづくりグローバル人材育成への取り組みを共に実施してきました。
今回は、これまでの活動を通じて構築された連携ネットワークを活用し、更に各国との研究協力を発展させ今後に繋げるため、また、これまで各国日系企業での現地インターンシップに参加した学生に、日本や日系企業の活動について関心を深めてもらう機会として、「共同研究活動コース」と「科学技術交流活動コース」の2コースに分け、さくらサイエンスプログラムでの招聘を企画しました。
2.実施内容について
共同研究活動コースで招聘された10名については事前に聴取した研究計画に基づき当研究所において各研究室に配属されました。
各自、「窒素挙動がP/M Ti-TiN複合材の硬度及び微細構造に及ぼす影響」、「不均質材料の曲げ挙動について」、「高速度カメラを用いたオーステナイト系ステンレス鋼の溶接時の溶融池と凝固割れの観察」など、それぞれ異なるテーマの研究に取り組みました。
参加者は各研究室の教員、学生などに温かく迎え入れられ、研究指導を始め、実験装置の利用方法に係る指導、その他日本での滞在に関するアドバイスなどを受けました。滞在初期には接合科学研究所における最先端設備の見学を行い、滞在中にはそれらの機材を最大限利用して共同研究に取り組みました。
参加者からは、「最先端設備を予約することで誰もが自由に利用できる制度に驚き、感激した」とのコメントもありました。研究の実施以外にも、当研究所の各研究室から最新研究について合同で講義を受け、自らの専門分野は勿論、異なる分野においても活発な質問や意見交換が行われました。
研究室によってはこの機会を若手研究者の経験の場として積極的に招聘者との関わりを深めるなどし、双方にとって大きな効果を得られた取り組みであったと言えます。
滞在中、日々の研究に取り組む中で参加者からは、「日本人が研究に対し、熱心にそして大変真面目に取り組む姿を見て学ぶことが多かった」などの感想も聞かれ、研究に対して新たな思いを感じた様子が伺えました。
滞在後半には当研究所主催の国際学会が開催されたことから、参加者は本学会への参加を始め、発表も行いました。今回の滞在を通して、共同利用・共同研究拠点型の研究所がどのように研究活動を行っているかなど、研究所の役割などについても触れて頂けたのではないかと思います。
活動の最後には成果発表会が開催され、短い期間ではありましたが、各自集中して研究に取り組んだ成果を発表し、研究所長から各自に認定書が贈呈されました。
帰国後に寄せられたコメントでは、「研究室の日本人学生は外国人で初めてのベストフレンドになった」、「特に京都の美しさに感激し、日本文化に興味を持った」など、日本での滞在に関する感想も多く寄せられ、研究は勿論、滞在期間に様々な発見と刺激を受けて帰国されたことが伺えました。
「共同研究活動コース」の受け入れでは、参加者側の希望する研究課題を募った上での招聘となりましたが、より効果的な共同研究を実施するために、今後は受け入れ側としてどのような研究課題が望ましいかもより検討し、その上で招聘者の希望と最大限調整することで、双方にとってより高度で有益な研究成果が出るよう対応を行いたいと考えています。
次に「科学技術交流活動コース」ですが、参加者はまず始めに当研究所の各研究室から最新の溶接、接合科学に係る研究講義を受けると共に、実験設備の見学などを行い、分野に対する見地を広めました。参加者の多くは溶接、材料科学の分野に関連する学生・研究者であり、最先端の研究内容と日本でも有数の実験設備に興奮の様子を見せながら、研究や機材に関する多くの質問を交わしました。
続いて行われた企業訪問では、ダイヘン(大阪)と島津製作所(京都)の二社を訪問しました。ダイヘンでは溶接ロボットや電圧機の製造工場見学を行うと共に、自ら溶接作業を体験しました。溶接分野を専門とする学生が他の学生にデモンストレーションを行うなど、異なる分野からの参加ならではの光景も見られました。
島津製作所では各種分析装置の製造工場などを見学した後、島津記念館を訪問し、島津製作所設立当時の発明品や各種実験装置、また日本最初のX線装置(ダイアナ)などの実物展示品を楽しみました。今回見学した機材の中には参加者が普段の学習や研究で利用している、または見たことのある機材も含まれており、それらがどのような技術を持って製造されているかを直接見学できたことは大変有意義でした。
その他、大阪大学総合学術博物館の見学も行い本学の研究と歴史について学びました。更に、新幹線の乗車体験、大阪城、海遊館(水族館)の訪問、京都では清水寺から祇園、四条の散策も行い、学術以外にも美しい日本の文化と歴史に触れました。
紅葉の季節であったことから、参加者は日本の美しい風景、気候も満喫したようです。紅葉のない国からの参加者ばかりだったことから、紅葉の仕組みが不思議だと、大変興味を持っていたのが印象的でした。
「科学技術交流活動コース」の参加者には、当研究所が別事業で実施している各国現地日系企業でのインターンシップに参加した学生も含まれていたことから、その経験を踏まえて今回の行程をこなすことにより、日系企業の一連の業務、日本の文化・慣習なども含めて更に視野を広めて頂けたようです。
帰国後に寄せられたコメントには「今後、日本への留学の機会を模索したい」というコメントもいくつかあり、実現に向け引き続き当研究所としても支援できればと考えています。
また、「参加した各国からの学生との友情はかけがえの無いものとなった」というコメントも多く、「科学技術交流コース」では5カ国からの参加者が合同で活動したことが、日本での経験により大きな刺激と意義を持たせたようです。
一方、本コースの参加者からは「接合研の研究内容についてより深く知りたかった」などのコメントもあったことから、今後の「科学技術交流活動コース」企画においてはこうした声を反映させたいと考えています。
3.今後の国際交流について
招聘した両コースとも、実施後に送り出し機関から大変有意義であり、今後も更なる交流を継続したいとの希望の声が寄せられました。
さくらサイエンスプログラムの活動を通して日本の最先端技術について知ること、また本学、当研究所の理解を深めることは勿論、参加者が自らの研究を改めて見直す、あるいは新たな視点で今後の研究、学習への取り組みを検討するという機会の提供になったものと思います。
「共同研究活動コース」では今回招聘した参加者が、これまですでに行われてきた別の国際共同研究活動に新たにメンバーとして参加するなど具体的な成果が出ています。また、今回の招聘を通して、送り出し機関と更なる信頼関係を構築できたことから、今後も様々な機会を共に模索し国際共同研究の発展に繋げたいと考えています。
「科学技術交流活動コース」の参加者についても、帰国後に本学、または接合研への留学希望の問い合わせなどがあり、今回の招聘が具体的な効果となって現れています。
送り出し機関との関係強化がなされた事により、来年度以降も別事業で実施する海外日系企業での現地インターンシップの連携活動もより円滑に進むものと期待されます。
4.さくらサイエンスプログラムに対する希望と期待
多くの人口を抱え、またこれから正に教育、研究、人材が発展しようとしている東アジア、東南アジア、西アジア地域との教育、研究連携は必須となっています。
また、日系ものづくり企業の多くがこれら地域へ生産拠点を移す中、現地における「研究から製造まで」の一貫したものづくりの実現は重要であり、そのための現地教育機関との教育・研究協力は日本の大学にとって大きな使命となっています。
そうした背景を踏まえ、さくらサイエンスプログラムの活動は海外の若い研究者だけでなく、日本の若い研究者の海外との繋がりを強化するというイニシアチブとしても非常に有効な活動だと考えています。
また、さくらサイエンスプログラムの対象地域について言及させて頂ければ、当研究所では、極限環境における接合・溶接技術の研究も進めています。そのため、極寒気候、砂漠気候など多様な環境を持つ地域、例えば中東などとも連携を強めています。
中東地域の教育機関と連携を行う中で、本地域がこれまで自然エネルギーに依存してきた国の発展を、教育・研究強化を基礎とした技術・人材開発による発展へとシフトする大きな動きがあり、日本の教育機関との連携へ強い期待があることも分かってきました。こうした意味で、今後、さくらサイエンスプログラムの長期的継続と、中東地域(特に湾岸地域)への対象範囲拡大を期待しています。