特別寄稿 第11号
感染症に対する国際防疫網構築の人材育成
黄 鴻堅
執筆者プロフィール
- [氏名]:
- 黄 鴻堅(ウイ ホンキエン)
- [所属・役職]:
- 麻布大学獣医学部・教授
- [略歴]:
- マレーシア生まれ。北海道大学獣医学部卒業、同大学獣医学博士取得。北海道動物医学センター株式会社在職経て、米国留学。
日本に戻り、北海道大学獣医学部助手に勤めた後、台湾国立中興大学獣医学科副教授に就任、そして教授に昇任、国際部部長兼任。
2009年~2012年山口大学農学部獣医学科教授、同大学国際戦略室副室長および副学長補佐兼任。
2013年より現職。
さくらサイエンスプログラム実施内容について
受入機関 | 学校法人麻布獣医学園 |
送出し国・機関 | 台湾6人(国立中興大学、国立台湾大学、中国医薬大学) タイ6人(チュラロンコン大学、ラジャモンコン大学、チェンマイ大学) 中国4人(北京農学院、中国農業大学) インドネシア2人(ガドゥジャマダ大学) 韓国2人(ソウル国立大学) フィリピン2人(フィリピン大学ロスバニョス校) マレーシア2人(マレーシアプトラ大学) |
招へい学生数 | 24名 |
招へい教員などの数 | 6名 |
実施した期間 | 2014年12月7日(日)- 同16日(火) |
1.さくらサイエンスプログラムのプログラムの目的について
近年、鳥インフルエンザをはじめ家畜疾病や人獣共通感染症等が国境を越えて伝播する事例が多く見られ、国際的な関心を集めている。
日本の獣医学はアジア圏のなかでも古い歴史を持っているが、日本国内で行われている最先端あるいは特有の家畜疾病診断法はアジア圏ではあまり知られていないのが実情だ。
今回、麻布大学(神奈川県相模原市)では、さくらサイエンスプログラムにより中国、韓国、インドネシア、タイ、台湾、フィリピン、マレーシアの7か国・地域から24人の獣医学生を招聘し、12月7日(日)~16日(火)の10日間、日本の最先端あるいは特有の家畜疾病診断法を日本人学生6人(麻布大学、東京大学、東京農工大学、日本大学、日本獣医生命大学)と共に実習形式で研修した。
招聘した学生は、アジア諸国のトップレベルの大学において、獣医学を専攻する高学年の学生又は大学院学生で、特に感染症に関わる分野に興味を持つ者だった。
国家間における人の出入りや物流が盛んになった昨今、家畜疾病や人獣共通感染症等が国境を越えて伝播する機会が多くなっている。
将来、これらの疾病の発生時に、招聘者らは本プログラムで得た知識とネットワークを利用して迅速に情報を共有し、対応することができる人材となることを目的にした。
研修後、学生たちは学んだ診断法を母国で応用するのをはじめ、招聘者間、大学間での情報共有化が期待されす。
国境を越えた家畜疾病や人獣共通感染症等の危険性が高まるなか、診断実務者や研究者による国家間情報ネットワークの必要性が急務となっている。
本プログラムの実施にあたり、獣医学分野におけるグローバル人材の育成として、日本だけでなく、アジア各国の関係者からも注目を集めており、とくに、次世代を担う人獣共通感染症に対する国際防疫網にかかわる青年の診断技術訓練の一環としたい。
本プログラムは平成26年度日本・アジア青少年サイエンス交流事業(さくらサイエンスプログラム)に採択されたもので、同事業は優秀なアジアの青少年が日本を短期に訪問し、未来を担うアジアと日本の青少年が科学技術の分野で交流を深めることを目指しているプログラムである。
2.実施内容について
本計画では、外国学生5名からなる6グループに分かれて、共同で家畜感染症の最新予防法について実習形式で学んだ。また、各国の家畜疾病や人獣共通感染症についても討議し、国際学術会議的な場も設けた。
施設や設備は麻布大学獣医学部内のものを用い、スタッフは当大学獣医学科の主に感染症に関わる研究に携わる10人で担当した。
実習内容は次の通り
視察または施設見学
今回、麻布大学で実施したさくらサイエンスプログラムについて、ユニークな点と思われるものは次の通り
3.今後の国際交流について
今回の参加者全員が本プログラムの継続を希望しています。また、彼らは自国で本プログラムの紹介・推薦を行うと言った。そして、日本人学生の招聘者としての参加が伴わなければ、当プログラムの成功は難しいと考えている。プログラム実施後、帰国した参加者に誰と最も親しくなったかと聞くと、「グループメート」という答えが一番多かった。もし、「グループメート」の中に日本人学生が含まれていないと、プログラムの根本的な意義に損なわれるではないかと感じる。プログラムにおける日本人学生の役割などを再検討する必要があるだろう。
2020年の東京オリンピック開催に向けて、より多く海外若者が日本に訪問する機会を作れば、日本の若者にとってもより多くの外国人と接することによって日本社会の国際化も更に進むだろう。
4.さくらサイエンスプログラムに対する希望と期待
今回のサクラサイエンスプランの参加者から多く寄せられた意見として、プログラム実施期間の延長があげられ、内容の充実を考える上でも、今後この意見を反映できることを切に希望する。
今回のようなコースを将来的にも実施し続けて行くことで、一つの有名な定期国際コースにまで発展させるために、JST には支援し続けて頂けることを期待する。
同窓会という概念は皆が同じ場所で共に学び、共に遊ぶことから成り立っている。サクラサイエンスプランも今後、今回のような実習を中心とするコースを支援することによって、次世代に、国境を超える友情の種をまいてくれると強く信じている。