2014年度 活動レポート 第1号:千葉大学大学院工学研究科 橋本研也教授

特別寄稿 第1号

中国・電子科技大学学生が千葉大学で高周波・MEMSに関する研修を実施
橋本研也

執筆者プロフィール

[氏名]:
橋本研也
[所属・役職]:
千葉大学大学院工学研究科・教授
[略歴]:
千葉大学大学院工学研究科電気工学専攻修了。工学博士 (東京工業大学)。
千葉大学工学部助教授を経て教授。現在、千葉大学先進科学センター・センター長、千葉大学・上海交通大学国際共同研究センター教授併任。
ヘルシンキ工科大学(フィンランド) 客員教授、科学研究庁(CNRS)振動子物理研究所(LPMO)(フランス) 客員研究員、中国科学院声学研究所客員研究員、リンツ大学(オーストリア) 客員教授、上海交通大学(中国) 客員教授などを歴任・併任。
IEEE Fellow、2005-2006 Distinguished Lecture Award, The Institute of Electrical and Electronics Engineers (IEEE), Ultrasonics, Ferroelectrics and Frequency Control (UFFC) Society
 

さくらサイエンスプログラム実施内容について

受入機関 千葉大学
送出し国・機関 中華人民共和国・電子科技大学
招へい学生数 10名
招へい教員などの数 1名
実施した期間 2014年8月24日(日)~30日(土)
 

1.さくらサイエンスプログラムのプログラムの目的について

2014年8月24日(日)~30日(土)の7日間、中国成都にある電子科技大学から学部生9名・大学院生1名と引率教員1名(計11名)が、科学技術振興機構(JST)さくらサイエンスプログラムの支援を受けて来日し、千葉大学と東北大学において高周波並びにMEMS(微小電子機械システム)技術に関する研修を実施しました。
今回の招聘の窓口である筆者は、携帯電話等に利用されている高周波電子デバイスとMEMS技術の高周波応用を専門としております。電子科技大学とは電子工程学院の鮑景富教授等と以前より密接な交流を進めており、教員間交流に留まらず、ポスドクや大学院学生も相当数受け入れています。今回の申請に当たっても事前に同大学を訪問し、どの様な研修内容とするかを詳細に議論しました。そして、我が国の高周波並びにMEMS関連の教育・研究環境を体感することにより、将来大学院学生やポスドクとして再来日に対する憧れを誘発することを目的に据え、研究室見学や講演ばかりでなく、英語での講義や実習を実施することにしました。また、参加する学生は電子科技大学側で選抜し、学業成績に優れ、英語に堪能なことは勿論、研修内容の高周波・MEMS技術に興味を持ち、さらに日本への留学に興味があることを選抜基準にすることにしました。
今回参加した学生は皆優秀で活気があり、セミナーや講義、研究室見学の際も目を輝かせて真剣に取り組み、鋭い質問を連発していました。研修中に実施した講義や実習にも無理なく対応しましたし、提出を義務付けた実習のレポートも質の高いものでした。多くの先生方が参加学生のレベルの高さに感嘆し、あの様な優秀な学生が留学生として希望してくれたら無条件で引き受け入れますとの感想も頂いています。
なお、コーディネータや研究室の説明は研究室所属の中国からの留学生(博士後期課程)に依頼し、参加者が日本での研究活動や生活等を気軽に質問できるように配慮しました。彼らの言うには、どの様にして留学したか、日本の生活や研究の様子、卒業後の就職等について、事細かに質問されたとのことです。

2.実施内容について

8月25日午後に成田に到着し、今回のプログラムのコーディネータを務めたドクター学生が出迎えました。そして、千葉のホテルまで移動し、チェックインの後、日本での生活全般に関するガイダンスを実施しました。
8月26日朝は筆者がプログラム全体に関するガイダンスを実施した後、千葉大学 劉浩教授からバイオメカニクスに関するセミナーを受講しました。また、近くの寿司屋で歓迎会を兼ねた昼食会を実施し、千葉大学側メンバーとの親交を深めました。午後からは千葉大学で展開している新しい形態の図書館(アカデミックリンクセンター)を見学した後、筆者による高周波電子工学に関するセミナーを実施しました。

千葉大学におけるセミナーの様子 (講演者は劉浩教授)

翌27日は伝送線路に関する講義を実施した後、筆者の研究室を見学し、引き続いてネットワークアナライザを利用した高周波ケーブル中の電磁波速度測定に関する実習を行いました。参加者の中には大学で伝送線路をまだ履修していない者も相当数居りましたが、皆興味を持って実習に取り組んでいました。その後、一行は仙台に移動しました。新幹線まで多少時間があるので、途中で浅草に寄ればと伝えたのですが、秋葉原にゆくとのことでした。ちなみに、26,27日の夕刻は皆でホテルのそばのヨドバシカメラに出かけたそうです。
28日は東北大学田中秀治教授の研究室を訪問しました。同教授はMEMSに関する世界的権威で、同教授の研究室には最先端の研究環境が整備されています。まず、田中教授にMEMSに関するセミナーを実施して頂き、引き続き、彼の広大な研究室を見学しました。

東北大学 田中秀治教授(右端)によるMEMS関連設備の紹介

また、田中教授並びに田中研究室メンバーとの昼食会を開催し、交流を深めると共に田中研究室での学習・研究環境について理解を深めました。午後には戸津健太郎准教授の御厚意により東北大学試作コインランドリーを見学しました。これはMEMSを中心とした試作開発用の共用設備を企業等に開放し、実用化を支援するものです。最後に、株式会社メムス・コアを訪問し、同社取締役 慶光院利映氏の御厚意により社内を見学させて頂きました。こちらはMEMS機器の開発を支援したり、委託を受けるのを業務としており、田中研究室と密接に連携しています。参加者は世界最先端のMEMS研究・開発環境並びに産学連携とはどの様なものかを垣間見ることができ、大きな刺激を受けたようでした。
その日は仙台に一泊し、翌29日に東北大学 末松憲治教授の研究室を訪問しました。こちらでは世界最先端の移動体通信技術を開発しており、高周波に留まらず関連技術まで広範囲に網羅した卓越した研究環境が整備されています。当日、教授本人は出張中のため、亀田卓准教授、本良瑞樹助教に研究室を紹介して頂きました。電子科技大学はレーダ技術開発を目的として創設された経緯から、高周波技術に関して著名で、それなりの研究環境は見慣れていますが、それでも世界第一線の研究・開発環境は想像をはるかに超え、大きな刺激を受けたようです。
その日の夕刻に千葉に戻りました。8月29日は、午前に千葉大学の劉研究室においてバイオロボティクス並びにバイオメカニクス関連の研究環境を、兪研究室において医用工学の研究環境を見学し、午後に日本科学未来館を訪問し、2 足歩行ロボットや会話ロボットなど、日本の科学技術の最先端を見学しました。その後、再び千葉大学に戻り、修了式を行いました。

修了式を終えて(中央は筆者)

最終日8月29日午後の飛行機で無事成都へ帰国しました。聞くところでは最終日午前も買い物に費やしたようです。
修了式直後に実施したアンケート調査によると、参加した留学生全員がこのプログラムに満足しており、千葉大学や東北大学での教育・研究環境の素晴らしさが印象深かったようでした。将来の日本への留学に興味を持ち、事実、既に何名かの参加者から留学に向けての具体的な相談を受けております。勿論、次年度も募集があったら周囲に是非とも応募する様に薦めたいとの意見でした。
将来大学院学生やポスドクとして再来日に対する憧れを誘発すると言う本プログラムの目的は十分に達成できたと自負しています。

3.今後の国際交流について

実際に留学を希望する優秀な学生を受け入れる枠組みを確立することが重要と考えています。現在、電子科技大学とのダブルドクターディグリー制度創設に向け、先方と調整しています。また、修士課程から留学してくる学生に対しては、如何にして金銭的に支援するかが課題で、そのための方策を検討しております。

4.さくらサイエンスプログラムに対する希望と期待

筆者はこれまでも事ある毎に海外の優秀な学生に対して日本への留学を勧誘して来ましたが、これまでは大学院学生にしか声をかける機会がありませんでした。今回、さくらサイエンスプログラムを実施したことにより、学部レベルの学生に対する勧誘が極めて有効であること、また、送り出し大学で学生を選抜してもらうことが有効であることが判りました。他の助成プログラムではこの様な枠組みの実施は難しいと考えられます。次年度以降も同様の枠組みでプログラムを構成したいと考えておりますので、是非ともさくらサイエンスプログラムを今後も継続的に実施して頂くようお願い申し上げます。