カイロ大学薬学部との研究交流
アフリカの院内感染症治療薬開発に向けた基盤構築へ

取材日 2026年度1月29日、30日(Dコース)

東北大学大学院生命科学研究科田中研究室では、エジプトのカイロ大学薬学部を相手国側交流機関として、D.相補的年間交流コースのプログラム「病原微生物由来タンパク質の構造生物学研究を通じた若手人材交流」を実施しています。2026年1月29日~30日、カイロ大の研究者たちが滞在中の田中研究室を訪問し、いよいよ終盤に向かってラストスパートをかけるプログラム実施現場を取材させていただきました。

※ D.相補的年間交流コース:インドとアフリカ諸国を対象として学生や若手研究者の相互交流(派遣・招へい・オンライン)を最長1年間の長期交流プログラムとして支援するもの。

本プログラムに参加するのは、実施主担当者の田中良和教授をはじめ東北大の大学生1名・大学院生5名と、カイロ大学で教員を務める若手研究者延べ3名。日本チームとエジプトチームがタッグを組んで、アフリカで極めて深刻な問題となっている致死率の高い院内感染症の原因菌が産み出すタンパク質の特性を、東北大が誇る世界最先端のタンパク質立体構造解析によって明らかにし、新薬開発の基盤を構築することを目指します。

2025年6月の採択以降、参加者たちはオンラインによる綿密な打ち合わせを積み重ねながら共同研究への道筋を整えてきました。そして9月には、まず日本チームがエジプトを訪問。田中教授による講義・ワークショップが行われ、構造解析を行うためのタンパク質調製や結晶化、東北大学の計算機によるリモート解析技術を、東北大の学生たちがカイロ大の学生や研究者たちに向けて、直接指導を行ったとのことです。
 田中教授は「プログラムに参加した研究室の学生たちは、カイロ大で指導者としての役割を果たすことを前提として、優秀なメンバーで臨んだ。人生初の国際共同研究に挑んだ彼らの、著しい成長を実感している。」と語ります。

取材日当日(1/29)、来日中のマーク・メドハブ博士とシャヒーラ・アル・バンナ博士は、東北大の学生たちのサポート受けて習得した、試料(タンパク質)を結晶化してスクリーニングする手法を実践してくれました。

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試料となるタンパク質を結晶化させた後、顕微鏡下でループとよばれる小さな部品を用いて結晶を拾い、液体窒素で急速冷凍してから金属製の結晶保管容器に保存しています(上段)。電子顕微鏡で観察するためにグリッドとよばれる銅でできた小さな網状の円盤にタンパク質溶液を塗布しています(下段)。(下段左:マーク博士、下段中:シャヒーラ博士)

■カイロ大学研究者の声

マーク・メドハブ博士

田中先生の結晶学的な手法により、タンパク質などの分子の構造解析が可能になることを知り、このプログラムに参加したいという強い意欲が湧きました。日本チームの皆さんがエジプトに滞在されている間、そして我々が来日してからも、結晶学の手法や、どのようにして原子レベルまで同定していくのかを丁寧に教えていただきました。試料グリッドを自分たちで作製することができるようになったことは、今後の研究においてとても大きな成果です。

シャヒーラ・アル・バンナ博士

私には院内感染で親族が亡くなるという経験があり、強い薬剤耐性菌に対する新たな治療法を見いだすことが非常に重要だと考えています。細菌由来のいくつかのタンパク質の結晶構造を決定することに関心があります。どのタンパク質を対象に研究すべきか、学んだことを実際に適用するために必要なことを田中先生と議論し、このプログラムを足がかりとして、さらなる共同研究へとつなげていくつもりです。

■東北大学の大学生・大学院生の声

  • こういったプログラムはほとんどが大学院生のみが対象になるなかで、学部生でも参加できたことが本当にありがたかったです。専門的なことを英語でコミュニケーションをとり、わからないことはディスカッションを重ねて見通しを立てながら進めていくという、得がたい経験をすることができました。(学部4年生)
  • 田中研究室は昔から国際的な交流をしているというイメージがあるのですが、自分はまだ一度も参加したことがなかったので、一度くらいは挑戦してみようと考えて参加しました。自分たちの専門は構造生物学なのですが、その専門性を生かして交流できたことがよかったです。エジプト文化の素晴らしさに触れるなかで、逆に日本の文化についてもその素晴らしさを再確認することができました。(大学院修士1年生)
  • エジプトという国が参加へ導きました。言葉やバックグラウンドの壁は、日々一緒に行動することで乗り越えることができました。専門的な研究分野において交流できたことはもちろん有意義だったのですが、それ以上に、異文化交流を通して様々な価値観に触れたことが、人間的に成長に繋がった気がします。このプログラムによって得た経験は、今後、どんな社会集団に属したとしても、生きると思います。(大学院修士2年生)
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笑顔でインタビューに答えるプログラム参加者たち

翌1/30は、田中研究室主催で二日間にわたって開催された「Asia-Africa Research Exchange Symposium」の初日の様子を見学しました。同シンポジウムは、東北大で教員を務めるアフリカの研究者をはじめ、北里大学、北海道大学など学外から招かれた研究者が登壇し、研究成果を発表するイベントです。

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シンポジウムは東北大学片平キャンパス内で実施されました

前述のインタビューに答えてくれた、本プログラム参加者のシャヒーラ博士とマーク博士、そして、ノハ・エルシャミー博士(もう一人のカイロ大学側参加者)も登壇し、発表のなかで「さくらサイエンスプログラム」を通した東北大学の学生たちとの交流についても紹介されました。

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発表をするプログラム参加者のシャヒーラ博士(上段左)とマーク博士(下段左)
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シンポジウムの前に田中研究室にて
実施主担当者の田中良和教授(左)、カイロ大学側のもう一人の参加者ノハ・エルシャミー博士(中央)、シンポジウムで登壇した北海道大学酒井隆一教授(右)*酒井教授は田中研究室が同時に実施しているNEXUS Y-tecの2024年度採択プログラム https://www.jst.go.jp/aspire/nexus/y-tec/theme/2024/vol001.html において、連携機関担当者をされています。

9月まで本プログラムのメンバーとして参加していたノハ・エルシャミー博士は、2023年6月から1年間、日本学術振興会(JSPS)の外国人特別研究員として田中研究室に在籍し、本プログラムの申請にあたっては、エジプト側の実施担当者として田中教授とともに企画に携わった若手研究者です。10月から大阪大学の特任助教就任が決まったことに伴い、本プログラムへの直接的な参加継続は困難となったのですが、今回のシンポジウムに登壇するために、大阪から駆けつけてくれていました。
 エルシャミー博士に本プログラムについて伺うと、「田中研究室の皆さんと活動をすることで、自分の専門である微生物学を活かして研究に貢献する素晴らしい機会を得ました。本当にワクワクする気持ちで参加していました。」と笑顔で答えてくださいました。


そして2026年4月、田中教授からとても嬉しいニュースが届けられました。
 なんと、エルシャミー博士が、田中研究室に、正式に助教として迎えられることになったとのことです!
 田中教授は「今回の成果は、2025年度さくらサイエンスプログラムD.相補的年間交流コース採択を契機として、カイロ大学との双方向交流が加速度的に深化し、具体的な成果として実を結んだもの」と語ります。

本交流によって培われた共同研究基盤を礎として、いつか、さらなる大きな成果が創出されることを心から期待します。

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