インドの学生・若手研究者が海洋プレート物質精査に挑む

取材日 2025年11月5日(Bコース)

金沢大学理工研究域地球社会基盤学類地球惑星科学コースの海洋/島弧深部物質研究室(森下研究室)では、インド カルカッタ大学、インド科学教育研究大学トリバンドラム校で地質学を学ぶ、大学生、大学院生、ポスドク、教員(引率者) 、計7名を招へいし、海洋プレート物質精査に挑む、意欲的な共同研究活動コースのプログラムを実施しています。

実施主担当の森下知晃教授の専門は岩石学。地球深部の岩石を分析することで、地球の起源を探る研究を行っています。今回、引率者として来日したゴーシュ・ビスワジット教授とは論文のレビューをきっかけとした15年来の研究仲間で、ともに国際深海科学掘削航海に参加し、海洋プレート深部物質の採取に成功したとのこと。
*海洋プレート:地球の表面を覆う岩盤の板(プレート)のうち、海底を形成するもの

取材日当日、インドの招へい者たちは、森下教授の指導のもと、研究室内の分析装置を用い、地球深部の物質や、インドの学生らがそれぞれ持ち寄った岩石(インド洋から採取された試料、昔は海洋プレートだったところが陸地になった場所から採取したもの)の成分分析に取り組んでいました。これらの精査を進めることによって、海洋プレートの形成・改変から、地球の発達史解明にも繋がるかもしれないという、壮大な夢とロマンにあふれた研究です。

取材写真1
取材写真2

分析結果をPC画面で確認しながら、興味津々に比較検討を行う彼らに、地質学を志した理由を尋ねると、「地球やそこに関わるすべてのプロセスについて知ることに本当に興味があります」「母なる地球がどのように進化したのかを理解すること、その好奇心が私たちみんなの心に潜んでいると思います」など、目を輝かせて答えてくれました。

取材写真3
取材写真4
取材写真5

また、11/1(土) ~11/2(日)には、森下研究室の大学生・大学院生らとともに島弧プレート断面と解釈されている福井県大飯町大島半島にて野外巡検を行い、海洋プレートとの構成要素の違いについても理解を深めたそうです。
*島弧プレート:弧状の島を形成しているプレート

取材写真6
野外巡検の様子(写真提供:金沢大学 森下研究室)

<参加者の声>

  • プログラムに参加し、実践的な知識を得ることができました。日本の文化や、日本の研究者の視点についても学ぶことができました。(カルカッタ大学 大学生)
  • カルカッタ大学では、このような分析機器を頻繁には使用することができません。将来的には、日本に戻り、研究の仕事を得たいと思います。(カルカッタ大学 ポスドク)
  • 私たち博士課程の学生は、日本でポスドクのポジションを得られたら非常にありがたく思います。日本の研究文化はとても素晴らしいです。特に地質学の研究を行うには非常に良い環境だと思います。(インド科学教育研究大学トリバンドラム校 大学院生)
  • 海外の皆さんとの研究交流は初めてで、英語でのコミュニケーションなどを考えると不安や怖さもあったのですが、実際に始まってみると、それはすべて杞憂でした。研究するうえで、国際的な視点が大切だということを学びました。大学院でこの経験を活かして研究を続けたいです。(金沢大学 大学4年生)
取材写真7
翌日に東京へ移動ということで、さくらサイエンスプログラムの修了証授与式も行われました。(前列左:実施主担当者 森下知晃教授、中央:引率者 ゴーシュ・ビスワジット教授、右:さくらサイエンスプログラム卒業生のデ・ビディシャ助教)

■金沢大学で教員として活躍するSSP卒業生
 デ・ビディシャ助教のインタビュー

金沢大学理工研究域地球社会基盤学類には、2015年に実施されたさくらサイエンスプログラムをきっかけとして、日本で博士号を取得した、インド出身のデ・ビディシャ助教が、本年7月から在籍しています。
 本プログラムに「指導者」という立場で参加し、まさしく日本とインドの架け橋として活躍するビディシャ助教に、お話を伺ってみました。

取材写真8

-さくらサイエンスプログラムについて

  • 10年前、私が修士の学生だったときに、広島大学で実施されたさくらサイエンスプログラムで日本の素晴らしい研究環境と文化に触れ、広島大学の博士課程に進学することを決めました。もし、さくらサイエンスプログラムに参加していなかったら、日本で研究をするという選択肢はなかったと思います。
    その後、研究員を経て、広島大学で特任助教として教鞭をとることになったのですが、インドの両親もとても喜んでくれました。

-日本の学生に教えるということ

  • 日本の学生とインドの学生は、学習への姿勢や、何かを学ぼうとする集中力といった点でとても似ていると思います。違う点をあげるとすると、日本の学生は少しシャイですね。多くの日本の教授から教え方を学び、学生たちひとりひとりに合わせて、彼らが自分で考えて理解できるような教え方を模索しています。

-本プログラムでの役割

  • 本プログラムでは、インドの学生たちが、研究や技術についてだけではなく、社会的なことや大学のことなど、なんでも質問しやすいサポーターとしての役割を担っています。インドには多くの言語があるのですが、私の故郷から来日した数名とはベンガル語で話しています。彼らと野外巡検に行ったことも、良い経験でした。

-これから研究者を目指す女子学生の皆さんへ

  • 高等教育や研究の場として、日本をぜひ選択肢とすることを薦めたいです。そして、もっと積極的になって、自分の考えをはっきりと表現して欲しいということを伝えたいです。やりたいことを追求することを恐れないでください。ほとんどの場合、素晴らしい研究者や人々が、より良い成果を得られるよう支援してくれるでしょう。
取材写真9
野外巡検のときの貴重な一枚(写真提供:金沢大学 森下研究室)

野外巡検の際には、偶然に大きな虹と出会うことができたとのこと。
 本プログラムの参加者たち全員が、将来、日印の架け橋として活躍することを、大いに期待します。