2020年5月のレポート③

フィリピンにおける新型コロナウィルスの状況

2020年5月13日

背景

フィリピンで確認された新型コロナウィルス感染の最初の症例は、2020年1月30日に報告されたもので、中国・武漢出身の中国人が軽度の咳のためにマニラのサン・ラザロ病院に入院したときのことです。数日後、彼女の男性の友人も新型コロナウィルスの検査で陽性であることがわかりましたが、他の病気との合併症で死亡しました。これが中国以外での最初の中国人の死亡となりました。2月5日にフィリピンのボホールで再び中国人女性が感染するという3番目のケースが確認されました。これらの3人の患者全員がフィリピンに来る前に香港からの旅行履歴があることが分かりました。その後、しばらくは新規の感染症例は確認されませんでしたが、それからわずか1ヵ月後に、日本から帰国した患者が入院し、感染が確認されました。それに続く5番目の感染者は国外への旅行歴がない人で、これが国内発症の最初の症例となりました。

かつては賑わっていた通りも、現在は人通りもなく、立て看板のみの案内となっています。

5月13日の時点で、フィリピンでは合計で11,350人の感染者が確認されており、751人の患者が感染により死亡しましたが、2,106人が既に回復しています。(出典:https://www.doh.gov.ph/covid19tracker )保健省のデータによると、フィリピンでは既に合計158,384回の検査が実施されており、熱帯医学研究所がこの疾患の疑いのある症例の検査をリードしています。 現在、検査センターの数は25箇所に増えています。

支援物資の運搬のためソーシャルディスタンスを守って作業します。マスクの常時着用もまだ求められています。

対応

国内で確認された感染の増加を受け、いくつかの対策が実施されました。3月16日以降、ルソン島全体が「コミュニティ検疫」(ECQ)の下に置かれ、公共交通機関の一時停止、全世帯における厳しい自宅隔離の実施、全ての民間施設の閉鎖などが課されます。医療従事者やその他の「最前線」の従事者は厳格な自宅隔離から免除されていました。ECQは当初4月30日に解除される予定でしたが、5月15日まで延長されました。

大災害宣言に続いて「バヤニハンで回復しよう」法(バヤニハンは「助け合い」の意)が制定されました。この法律により、大統領はパンデミックへの対応として、2,750億フィリピンペソ(約54億ドル)と見込まれる予算を再編成し、再計画することができます。受益者に1人当たり5,000~8,000フィリピンペソ(約100~160ドル)を支給することを目的とする政府の社会改善プログラムも開始されました。

大学や他の私企業からの支援

様々な機関が政府の進めているパンデミックとの闘いを助けるための支援を示しています。まず、フィリピン大学の研究者と科学者達は、病原体の核酸を迅速に検出するように設計された新型コロナウィルスの迅速な検査キット(GenAmplifyTM COVID−19 rRT−PCR検査キット)を開発しました。この検査キットは海外から入手するものよりも安価であるとされています。この開発者によると2時間以内に結果が得られるとのことです。これとは別に、国中にあるフィリピン大学の別のキャンパスが支援を提供していますが、それらの支援は、医療の最前線で働く人々のために3次元でプリントされたフェイスシールドを提供すること、診断のために病院にRT−PCRの装置を貸し出すこと、入院患者のために手頃な価格の人工呼吸器を設計すること、大学の研究所を地方の検査センターとして使用することができるように提供すること、などです。さらに、フィリピン大学の COVID−19パンデミック対策チームは、 Webポータル(http://endcov.ph/)を作り、国内の新型コロナウィルス感染に関する情報を一般市民と対応者に提供することにしました。

“このウェブサイトは詳細なマップを持っており、利用者はズームイン、またはズームアウトにより道路から全体的な場所の衛星画像に至るまでの情報や、また、感染者の数、病院、検疫場所、その他のフィリピン大学の機能回復研究所(UPRI)のスタッフが入力した利用可能なデータを見ることができるようになっています。この使いやすいマップは、確認された新型コロナウィルスの感染者の濃度も示しており、各地のエリアを高いエリア(暗い色)と低いエリア(明るい色)とに分けて示しています。”
https://www.up.edu.ph/up-launches-web-portal-map-for-covid-19-responders/ から引用)

自宅隔離によって深刻な影響を受けている日雇い労働者に対して大学の卒業生から寄付された多くの食料品

これを書いている時点で、我が国は依然としてこのパンデミックと戦っています。多くのフィリピン人は現在の政策、特に日々の収入を得ることについて苦労しています。地域社会での自宅隔離が強化されてきたため、多くの人々が仕事を失い、限られた食料が供給されるだけになってしまいました。毎週、地方自治体は人数が3〜5人の家庭にとって十分な食料の配給を行っています。地方自治体はまた、地域内の集会を最小限に抑えるために別な形のプログラムを行うよう指示されています。このように、多くの市町村では、人の密集を最小限に抑えるために、既に移動マーケットを実施しています。

現在、学校を含む全ての公共活動は無期限に停止されています。多くの人がまだ自宅で快適に働いている一方で、私達が従来通りの日常生活にすぐに戻ることができるかどうかは不透明です。今のところ、熱帯の国でさえも物理的な接触が少なくなるようにマスクを着用することが「新しい常識」でなければならない、という事実に向き合わなければなりません。

Cris Nino Bon Marasignan
フィリピン大学、ロスバニョス

注)原文からの和訳はJSTによるものです。正確な表現やデータについては、英語原文をご参照ください。(原文はこちら