新型コロナウイルス:フィリピンの状況

新型コロナウイルス:フィリピンの状況

さくらサイエンスプログラム(SSP)同窓生

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされる新型コロナウイルス感染症は、中国湖北省武漢市から広がったヒトの感染性の高い呼吸器疾患です。本ウイルスはコウモリ由来と言われており、2020年3月11日に世界保健機関(WHO)によりパンデミックとみなされると発表され、200か国で170万人が感染しています。

 フィリピンでは、2020年1月30日に初めて新型コロナウイルスの感染例が確認されました。1月21日に武漢から入国した38歳の中国人女性患者が軽い咳で受診し、陽性反応を示しました (1)。フィリピン政府は確認の翌日、中国湖北省からの渡航を禁止し(2)、2020年2月2日に禁止範囲を中国本土、香港、マカオに拡大しました(3)

 最初の新型コロナウイルスによる死亡例は2月2日に報告されました。武漢への渡航歴がある44歳の中国人男性で、1月21日にフィリピンに到着しました。発熱、咳および咽頭痛のためマニラの病院に入院し、2月1日 に早すぎる死を迎えました(4)

 3月7日、保健省(DOH)は初めて国内での感染例を確認しました。患者は62歳男性で、フィリピンで5例目の新型コロナウイルス陽性症例であり、最近の海外渡航歴はありませんでした。このため、保健省は新型コロナウイルスの警戒レベルをコード・レッド・サブレベル 1 (6,7)に引き上げました。これは、フィリピン国内で感染が起きていることを意味しています。3月8日には、フィリピン政府は公衆衛生上の緊急事態を宣言しました(8)。この宣言により、国内での病気の蔓延を抑制するための財源へのアクセスが容易となり、必要な医薬品のより迅速な調達が可能となりました (9)

 フィリピン政府は、特にマニラ首都圏での症例が増加していることから、新型コロナウイルスの警戒レベルを「政府が対処できる範囲を超えたコミュニティ感染と有症率の証拠がある場合」に引き上げられるコード・レッド・サブレベル 2(最高レベル)とし、 (10)、3月15日から4月14日までマニラ首都圏において「強化されたコミュニティ隔離」措置をとると宣言しました (11)

 コミュニティ隔離のガイドラインの下では政府内の業務は停止となりますが、必要不可欠なサービスを継続する必要のある政府機関には基幹要員が割り当てられ、すべての保健および法執行機関はその職務を継続しなければなりません。民間部門は、従業員のために柔軟な勤務形態を採用するよう奨励されました。マニラ首都圏への国内陸路、空路、海路の移動は制限されました。学校の休校措置については地方自治体の判断に委ねられました。新型コロナウイルスの症例が確認された国からの外国人の入国は禁止されました (11)

 3月12日には、コミュニティ隔離が3月15日から実施されることが発表されたため、マニラ首都圏から各地方への人の流出が発生しました (12)。3月15日に検疫が開始されると、そのガイドラインに混乱が生じることとなりました。民間企業の従業員は依然として会社へ出勤しており、多くの人がマニラ首都圏外の州に居住していることから、雇用証明を提示した場合に限りマニラ首都圏へ出入りすることが許可されました (13)

 ショッピングセンター、大部分の飲食店、教会、その他の宗教的サービスやレジャー施設は閉鎖され、営業を許可されたのは、雑貨店、薬局、銀行、一部の飲食店に限られました (14)

 3月16日、政府は半年間の全国的な災害状態を宣言し、緊急対策基金や災害基金の使用を可能にしました (15)。また、強化されたコミュニティ隔離措置をルソン島全体に拡大しました (16)

 新しい覚書のガイドラインには、学校活動の停止、集会の禁止、厳格な自宅検疫の実施、法執行と保健サービスを除く行政機関による在宅での勤務、4月14日までの陸路、空路、海路による移動の制限などが含まれています。

 3月25日、共和国法第11469号「バヤニハン・トゥ・ヒール・アズ・ワン(団結して治癒する共同作業)」が施行され、新型コロナウイルスの感染拡大を管理する大統領および行政部門に特別な権限が与えられました。同法の新たな特別条項には、2か月間低所得世帯を対象とした、ひと月当たり5,000フィリピンペソ(約100ドル)から8,000フィリピンペソ(約160ドル)の補助金の支給、医療従事者への追加危険手当と特別補償の支給および公共の利益のため政府により必要とされた民間の施設や企業の活用などがあります (17)

 4月7日には、行政部からの覚書に基づき、強化されたコミュニティ隔離措置を2020年4月30日まで延長しました (18)

 4月15日現在、フィリピンではRT‐PCR法により5,223例が確認されており、うち入院中3,151例、死亡335例、回復295例、DOHによる検証中1,442例となっています (19)

 現在、強制的な隔離措置が厳しく実施されており、ほとんどの地域では、家族に1枚の検疫パスが与えられています。この検疫パスは、必要な品を購入するため外出する際、家族の一人だけが使用できます。スーパーマーケット、生鮮品市場、薬局、一部の食料品店は、人と人とが物理的に1メートルの距離を保つソーシャルディスタンスの確保、マスクの着用の義務化、入店時の手指の消毒、体温測定などの厳しい検疫措置がある中でも営業を継続しています。一部の自治体では、大きな市場に人が集まるのを防ぐため、特定の地域にトラックを走らせて商品を販売する「マーケット・オン・ホイール」を開始しています。

 また、低所得者層には、外出を控えるために缶詰や米などの救援物資を配布しています。さらに、非正規、契約労働者や公共交通機関で働くようなノーワーク・ノーペイの労働者には、政府からの補助金が支給されます。

 隔離措置が始まった最初の数週間は、医療従事者のような基幹要員は長距離を歩いて通勤していたが、政府はその後、これらの職員のため移動用車両を提供しました。また、いくつかの公共団体や民間団体は、医療従事者や現場で働く人々に一時的な宿泊施設や食料を提供しています。いくつかの有料道路では料金徴収を一時的に停止し、ガソリンスタンドでは無料でガソリンを提供しました。

 政府からの支援要請が高まる中、フィリピンの大企業は、医療機器や検査キットのための現金や現物寄付を含めて約60億ペソ(1億2,000万ドル)を寄付しています。

 航空機関において、国際線は足止めされた外国人を本国に送還したり、海外のフィリピン人労働者を受け入れるために一部運航されています。国内線については、特に外国人を送還するために必要に応じて運航を許可されています。

 政府はまた、病院の収容能力を補うため、政府や民間の建物、さらには船舶について新型コロナウイルスの検疫・治療施設への転用を開始しました。

 自治体によって隔離のルールが異なるため、食料などの必要物資が不足することが予想されていました。そこで政府は検疫所を通過した物品の移動を妨げないよう義務付けるガイドラインを発表しました。

 政府は、集会やウイルスの拡散を阻止するため、国民に自宅待機を義務付けるとともに必要物資を提供しています。今後、新型コロナウイルスの大量検査を行い、隔離が解除されるまでの間、基本的な物資やサービスの提供を継続していくことになっています。

 このアウトブレイクにより、フィリピンの一般国民は、患者の「感染疑い、感染の可能性有り、感染確認」の区分、検査の重要性、確認検査とスクリーニング検査の違いなど、基本的な疫学を学び始めました。現在、基本的な衛生管理は国民の間で厳しく実践され、習慣化されています。消毒手順の義務化などのバイオセキュリティ対策は、事業所や一部の家庭など全国的に実施されるようになってきました。これは、畜産農場の厳格なバイオセキュリティプロトコルに対する国民の評価が高まっていることを意味していると考えられます。

 医療従事者だけでなく、ゴミ収集員、警備員、配達員、食料品店や薬局の従業員などの現場で働く人々に対する感謝の声が聞かれるようになり、彼らへ尊敬の念が生まれています。地元の農家や漁師、地元で生産された商品への感謝と支援の輪も広がり、隔離が解除された後、彼らへの支援を増やすよう提唱している人もいます。また、在宅勤務の解決策として、オンライン会議などの技術的手段も広く活用されています。

 個人的にも、隔離措置によって日常生活に大きな変化がありました。私は政府職員として、現場で、あるいは在宅勤務でサービスを提供し続けています。現在、我々の機関では必要不可欠なサービスのみ行っています。良い点としては、最近は交通量が非常に少ないため、毎日の通勤時間が短縮されたということ、在宅勤務が可能になったことで、執筆や書類の準備などができるようになったこと、また、家族や友人とより長く過ごせるようになりました。

 マスクと消毒用アルコールは、私の日常生活には欠かせないものとなりました。外に出て人と接するときには必ず手洗いをするようにし、帰宅時には服や持ち物に消毒液をスプレーしています。

 私の個人的な意見としては、この流行は今後、短期間では解決しないだろうと考えており、人々の生活習慣や行動を変えることが必要だと思っています。4月30日の隔離解除までには、感染拡大防対策を維持しながら、経済面や交通機関は徐々に開放されていくでしょう。

 今後も人口は増加し続け、集団発生のリスクが高まることから、政府、金融、企業、医療部門がこの状況を教訓にして、将来的に法整備や予防策を策定することが望まれます。また、今回の集団感染が最後の発生とは限らないため、今回学んだ教訓が国民にも定着することを願っています。(2020年4月14日)

注)原文からの和訳はJSTによるものです。正確な表現やデータについては、下記の英語原文をご参照ください。

COVID-19: Philippine Situation
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