新型コロナウイルスを振り返って

新型コロナウイルスを振り返って

Choe Seongjun
韓国・国立忠北大学

  今日(2020年5月20日)で、韓国における最初の新型コロナウイルス患者が確認されてから4ヶ月経ちました。ここでは、一市民として見守ってきた韓国での新型コロナウイルスの発生と対応についてお話ししたいと思います。

嵐の前の静けさ

  2020年1月、私はありふれたごく一般的な日々を過ごしていました。妻と海外旅行に行く予定で、近日中に提出する原稿に掲載されているデータの修正をしていました。海外のニュースで聞いた「謎の病」は、他の国で起こっていることで、どこか他人事のように思っていました。中国に滞在している叔母夫婦のことは心配していましたが、他の病と同じように、一部の地域で拡散して終息していくものかと思いました。少なくともその時はそう思っていました。状況を楽観的に見ていた私とは違い、韓国政府や専門家は真剣に状況を見て、迫りくる緊急事態のため、万全の準備をしていたようです。実際、彼らはかなり前からこの緊急事態に備えていたそうです。

  2019年12月17日、韓国疾病管理予防センター(KCDC)は、中国発の未知の肺炎に感染した家族が我が国に入国したと想定し、対策訓練を実施しました。この時点でKCDCはすでに検出技術と疫学対策の試験運用を行っています[1]。そして、約1ヶ月後に韓国で初めて新型コロナウイルスの陽性患者が確認されたときには、この事前準備が役に立ちました。新たに出現したウイルスに対するKCDCの対応は一朝一夕によるものではなかったのです。

 2015年、韓国は中東呼吸器症候群(MERS)の影響で大変な時期を過ごしました。ウイルスが終息するまで、186人が陽性と検出され、そのうち39人が死亡しました[2]。サウジアラビアでの症例数を除けば、全世界で最も感染者数と死亡者数が多く、この時の疾患管理は明らかに大失敗でした。この教訓を生かし、失敗を繰り返さないために、韓国政府は同様のウイルスの発生に備えて着々と準備を進めてきました[3]。

  中国での陽性患者が急増した時期には、KCDCは新型コロナウイルスの症状や発生地域などの情報に基づいた対策を確立し、中国から提供されたウイルスの塩基配列に基づいた検出キットの開発に着手していました。新型コロナウイルスのパンデミックを考慮する上で非常に適切な対策ではありましたが、現時点では対策が少し過剰であるとの指摘があります[4]。新型コロナウイルスが流行した初期には、中国は自国で生産しているマスクの量では、到底国内の需要を満たすことはできないという噂がありました。卑劣で不謹慎な人々は、マスクを備蓄したり、買いだめしたり、中国の会社とコンタクトしてマスクを手に入れようとしました。彼らは入手したマスクを他国に再輸出し、そのことが韓国で新型コロナウイルスが流行した初期にマスクの在庫不足につながりました。当時、人々の間では「マスクコイン」という言葉が頻繁に使われていましたが、これはビットコインなどの仮想通貨に由来するものでした。

ウイルスの拡散の始まり

  2020年1月20日、韓国で1人目の陽性例が確認されました。患者は中国・武漢市出身の35歳の女性で、その4日後(1月24日)には2人目の陽性患者が確認されました。いずれも海外からの流入症例であり、国内での感染は確認されていませんでしたが、韓国社会に不安を与えるには十分でした。マスクを手に入れようとする人々が増え、マスクをして外出する人も増えました。陽性例は時間の経過とともに次第と増えていきました。症例はすべて中国からの流入症例で、中には症状がありながら街を出歩く人もいたと言います。この時点で中韓間の航空便は減少傾向にあり、中国にいる韓国人の多くはすでに帰国し始めました。検出されない新型コロナウイルス陽性者との接触や、中国からの来訪者もあり、社会ではさらに不安が高まりました。1月30日には陽性者が6人に増えました。特に、そのうちの1人は3人目の陽性患者との接触による感染例であり、韓国での二次感染が初めて発生したことを意味していました[5]。不幸中の幸いとして、(新型コロナウイルスの)検査機器の開発はすでに成功しており、間もなく緊急使用許可制度により、使用が許可されることになりました。また、KCDCから陽性患者の移動ルートの情報が提供され、疫学調査を経て、接触者のほぼ全員が隔離され、新型コロナウイルスの検査が行われました。

 新型コロナウイルスの初期対応は、とても積極的かつ有効でした。KCDCは可能な限り多くの検査を行い、陽性患者を1人も見逃さないようにしました。疑似例や陽性患者と接触した人もすべて検査しました。結果として、陽性患者の数は着実に増加していきました。また、在外韓国人の安全政策も継続的に実施され、各国に駐在するKOICA(韓国国際協力機構)の職員を含めた海外に在住する韓国人は全て帰国しました。 [6]。

 チャーター便を通じて、中国で孤立する韓国人の帰国活動にも力を入れました。一部の韓国人は海外に滞在する韓国人の帰国を懸念し、隔離施設周辺の市民の中には政府に抗議する者もいました。しかし、これらの動きはすぐに薄れていきました。帰国した韓国人の中には、陽性確認された人もいましたが、これらの患者も徹底的な衛生管理のもと、二次感染が起こることはありませんでした。韓国では、新型コロナウイルスの管理がとても行き届いているように思われました。

2020年5月18日時点の韓国におけるCOVID-19感染状況
(参照:http://ncov.mohw.go.kr/
感染爆発

  2020年2月18日に新たに1人の陽性患者が確認され、韓国での陽性患者は31人に上りました[7]。新たな問題として、これらの患者には海外渡航歴はなく、他の陽性患者とも接触した経歴がなかったことです。また、(新たな患者は)行動範囲も広く、不特定多数の人々と接触したことが明らかになりました。患者はこの期間中に礼拝所も訪れていたこともあり、後に「新天地」という宗教団体に所属していたことも明らかになりました。この日から韓国での新型コロナウイルスの感染パターンは一変しました。31人目の患者に関連した陽性患者が爆発的に増え始め、わずか1週間で800人を超えました[8]。

 新型コロナウイルスが感染拡大する中、宗教団体である「新天地」は特別視されました。新天地は韓国の主流のキリスト教グループから異端の宗教団体とみなされており、それが彼らを対外的には目立たないようにし、主に陰で活動することとなりました。彼らは密かに信者を募って教育し、集会所では俗にいう三密の条件が成り立っていました。彼らの密かな活動は疫学調査でも問題視されており、接触者の特定と追跡は困難でした。大邱市の新天地教会が感染の震源地と特定され、その結果、大邱市に住む人々に新型コロナウイルスが拡散しました。新天地に関連した感染は全て検出され、3月20日には新天地に直接関連した患者数は5,028人を記録しました[9]。当時、韓国で検出された陽性患者全体の58.7%を占めており、新天地問題以前の2月18日時点では、新たな陽性患者は1ヶ月間で約50人しか確認されていませんでした。

 新天地問題以前は、韓国政府の対策はかなり成功していたように見えました。少数の患者が陰圧室で隔離され、一人の死亡者も出ずに適切な治療が行われていました。しかし、新天地問題により全てが変わりました。2月20日、新型コロナウイルスによる最初の死者が出ました。死亡したのは、入院中に感染したハイリスクグループの高齢患者で、その後、患者数、高齢者数の増加に伴い、医療スタッフに過重な負担がかかるようになりました。ソーシャルディスタンスが実施され、学校の再開も先延ばしになりました。大学ではオンライン講義を開始し、かろうじて教育活動を続けられています。

 また、マスクの供給は深刻化し、スムーズにはいきません。多くの人はマスクなどの感染防止グッズを手に入れたいと考えていますが、すべての人が手に入れることはできません。韓国政府はマスクの生産を政府の管理下に置き、パブリックマスクを配布し始めました。(消費者の)誕生日に合わせて5日ローテーション制のマスク購入システムを導入し、多くの人が集中して同じ日にマスクを買うことができないようにしました。また、マスクやその他の個人用防護用品の輸出も厳しく制限されました。KCDCは、新型コロナウイルスの状況が落ち着くまでの間、マスクの効率的かつ効果的な配布のため努力を惜しみませんでした[10]。

マスクを着用してレストランへの入店を待つ客
火の勢いが弱まる

   陽性患者の爆発的な増加にもかかわらず、韓国政府とKCDCの努力には目を見張るものがありました。彼らは新型コロナウイルスのかけらをすべて追いかけるように、疑われるすべての疑似症例の検出を行い、ついに感染伝播の尻尾を捕らえました。政府と世論の圧力の下、ついに新天地も関係者の個人情報を提供して調査に協力することに合意しました。2020年3月初旬には、新天地関係者の99%を対象とした検査に成功しました[11]。陽性患者は増加し、新型コロナウイルスは依然として地域で感染拡大していきましたが、新たに確認された陽性者数は日に日に減少していきました。新天地問題から2ヶ月後の4月20日には、新規陽性患者数は10人以下にまで減少しました。

 韓国で新型コロナウイルスの管理が成功したことには、さまざまな要因が考えられます。陽性者を発見するための恒常的な検査がさらなる感染を防ぐために地道に行われていて、数千人から1万人まで毎日継続的に検査されています。検査の効率を上げるために、新たな診断技術も開発されてきましたが、特に代表となるのがドライブスルー方式です。この方法は主に大邱七谷病院に、2月23日に導入されたもので、医療スタッフと疑われる患者との接触を最小限にして、感染のリスクを減らし、検査のスピードを上げるという利点があります[12-13]。

 また、一日中衛生保護具を着用している医療スタッフや、定期的に保護用品を交換する必要がある医療スタッフに配慮して、ウォークスルー保護具を導入しました。3月15日から導入されたこの方法は、車のない人にも適用でき、医療スタッフと疑似感染者を分離することで、より安全かつ効率的に検査を行うことが可能となりました。システム化された検査方法は、効率的に検査を行うことができ、検査時間を短縮することもできます[14]。

 上記以外にも、公衆衛生が十分に整備されていることも重要な要素の一つです。新型コロナウイルスの検査料金はほとんど韓国政府がカバーしました。検査結果が陽性であれば検査料は無料であり、医師が検査を受けるように勧めた場合や新型コロナウイルスの疑いがある患者に分類された場合も検査料は無料となります。また、陽性となったケースでも、医療保険制度の活用により、治療費が非常に安くなっています。例えば、新型コロナウイルスで19日間の院内治療で回復した患者の請求書が公開されていましたが、請求書費用9,709,900ウォンのうち、患者が負担した費用はわずか44,150ウォンでした [15]。隔離状態にある人たちには、食料や飲料、ストレス解消のための本、塗り絵など多くの物資が提供されました。

 国民の協力も新型コロナウイルスの抑制に大いに役立ちました。ソーシャルディスタンスが人々の心の中に文化のように定着し、街中でマスクをしていない人を見つけること自体が困難となりました。個人情報の公開に関連した領域では否定的な意見もありましたが、国民の多くは個人情報よりも社会安全を優先していることを認識しており、多くの国民が協力しました [16]。インターネットの発展に基づき、国民は感染情報の伝達・交換を効率的に行いました。ネット上では、症状があるのにマスクをしなかったり、自己隔離のガイドラインに従わなかったりする多くの人たちが批判されました。人々は自己管理をしっかりと行い、隣人と協力して感染の原因にならないように協力してきました。また、5日ローテーション制のマスクシステムの導入により、医療用保護用品が人々に供給され、4月中旬には保護用品が需要以上供給されるようになりました。

終わらない戦い

 当初、韓国政府の常套手段で状況を打開する主な措置は、多くの懸念を生み出しました。陽性患者との接触やその痕跡、疑われる症状、関連するすべての対象者を検査し、それらは時には積極的すぎると見なされることもありました。この措置は、韓国の陽性者数の増加につながり、一時は中国を除く世界各国よりも陽性者数が多くなったこともあり、韓国からの渡航を制限する国も出てきました。結果として、この措置は我が国の外交・経済ダメージにつながると考えられていましたが、目の前の利益で措置を選ぶのではなく、未来に繋がる選択肢を選んだことを強調したいと思います。のちに、この選択が結果へと結びつき、韓国は新型コロナウイルスのコントロールに成功した国に挙げられました。

 韓国政府の基本方針は透明性と公平性です。政府は新型コロナウイルスの問題に関する情報を提供し、特に高齢者、子供、障害者、低所得者などの感染リスクが高いグループに細心の注意を払いました。これらの政策は、人々が政府を信頼し、自主的に疫病対策に参加するような状況を作り出しました。また、政府の支援は国内のみならず、海外在住の韓国人、移民した韓国人、朝鮮戦争の退役軍人など、多くの人々にも届きました。また、国家としての信用と国家イメージの向上にも貢献しました。新型コロナウイルス対策で、効果的だった検査キットなどの関連製品は、すべて韓国と友好関係にある国へ寄付といった形で寄贈されました。

 状況は良くなっているように見えますが、韓国では未だコロナ危機が完全に払拭されたわけではありません。4月末には、日々確認される陽性患者数が着実に減少していることから、社会では楽観論が高まり始めました。新型コロナウイルスが国内で流行し始めてから3ヶ月が経ち、多くの韓国人は非日常的な日常生活に疲れを感じています。3月から5月は韓国で花が咲く季節です。多くの人々は、韓国の春の野外活動を恋しく感じていることでしょう。このように、新型コロナウイルスが収束傾向にあると思い、一部の人たちは日常における活動を再開しようとしました。陽性者数は減少し、輸入例を除いて陽性患者がゼロになった日もあり、人々は徐々に緊張感を緩めていきました。やがて、5月上旬になると、韓国の長期休暇中に新型コロナウイルスは再び感染爆発しました。5月7日に新型コロナウイルスの陽性と確認された人が、症状があるにもかかわらず梨泰院の数カ所を訪問していたことが判明。梨泰院クラブから地域住民に再び感染しました。5月20日には約200人の感染が確認され、今もその状況が続いています [17]。

 韓国における新型コロナウイルスとの戦争は未だ続いています。感染の第2波が予想されていますが、KCDCはそれに立ち向かうための準備を着実に進めています。新天地事件よりもまだ良いことは、陽性患者の急増による医療従事者の過負荷が緩和されたこと、検疫用品の供給がスムーズになったこと、いずれも想定の範囲内に収まっていることです。ほとんどの人が政府の通達に従い、新型コロナウイルスの感染を抑制しようとしてきました。しかし、梨泰院クラブ問題のように、一部の利己的な人々により、感染はいつでも再燃する可能性があります。

 おそらく、新型コロナウイルスの完全な終息は、外国からの流入を阻止することによって達成されたように、韓国での地域的な広がりを止めるだけではなく、世界的なコロナ管理によって初めて達成されるのではないでしょうか。ワクチンや治療薬の供給、あるいは大多数の国民が抗体を保有するような状況に至るまでは、まだまだ時期尚早だと思われます。韓国政府の新型コロナウイルス対策は、感染防止だけが目的ではなく、医療従事者や社会の負担を軽減し、効果的な治療法や予防法ができるまでパンデミックの時期を遅らせることが目的とされています。この状態で新型コロナウイルスを乗り越えていくことができるかもしれません。この悲惨な疫病がいつ終わるかはわかりませんが、一日も早くその日が来ることを願っています。

注)原文からの和訳はJSTによるものです。正確な表現やデータについては、下記の英語原文をご参照ください。

Looking back at COVID-19
<出典>
  1. https://www.reuters.com/article/us-health-coronavirus-southkorea-drills-idUSKBN21H0BQ
  2. http://dj.kbs.co.kr/resources/2015-06-08/
  3. http://www.ksid.or.kr/file/mers_170607.pdf
  4. https://www.cdc.go.kr/board/board.es?mid=a20501000000&bid=0015&act=view&list_no=365729&tag=&nPage=1
  5. https://www.cdc.go.kr/board/board.es?mid=a20501000000&bid=0015
  6. https://www.yna.co.kr/view/AKR20200320089800371
  7. https://www.cdc.go.kr/board/board.es?mid=a20501000000&bid=0015
  8. https://www.bbc.com/korean/news-51609490
  9. http://ncov.mohw.go.kr/tcmBoardView.do?brdId=&brdGubun=&dataGubun=&ncvContSeq=35365%20&contSeq=353656&board_id=&gubun=ALL
  10. https://www.mfds.go.kr/brd/m_74/view.do?seq=43738
  11. https://www.yna.co.kr/view/MYH20200303017800641
  12. http://www.hani.co.kr/arti/society/health/930886.html#csidx242d57ef56d8ccfa82a7abfabfd3889
  13. https://jkms.org/DOIx.php?id=10.3346/jkms.2020.35.e123
  14. https://www.docdocdoc.co.kr/news/articleView.html?idxno=1078572
  15. https://www.hankookilbo.com/News/Read/202003191450377763
  16. https://www.yna.co.kr/view/AKR20200518072400017
  17. https://www.cdc.go.kr/board/board.es?mid=a20501000000&bid=0015
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