日中大学フェア&フォーラム 開催報告&レポート

【速報】日中大学フェア&フォーラム in イノベーションジャパン2016 - #02

2016年08月29日 馬場 錬成(中国総合研究交流センター上席フェロー)

公募型オープンイノベーションで意見交換

 「知の創造~新たな結合による価値の創出~」を掲げて、8月25、26日、東京ビックサイトで開催された「イノベーション・ジャパン2016」の日中大学フェアでは、中国から32大学・機 関がブースで出展し、日本企業や大学とのビジネス・研究マッチングで積極的な交流を展開した。

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写真1 中国の大学の出展ブースで来訪者を歓迎するスタッフら

 武田薬品工業医薬研究本部のアライアンスマネージャーの村西廣哉さんと、課長代理の中西和子さんは、中国の大学ブースを回りながら、同社が進めている「公募型オープンイノベーション」の説明などを行った。

 同社が指定する研究領域に関する創薬アイデアを世界中から提案してもらい、マッチングに合えば平均500万円の研究費を提供するというものだ。最初に立ち寄った北京大学のブースでは、同 大学技術移転センターの藩小暁・主任助理と意見交換した。村西マネージャーから研究内容について「アイデアを含む初期段階の実現性の検証を目的にする研究を求めている」と説明。

藩氏が研究者のアイデアと企業側の希望を、どのようにしてマッチングするか具体的な態様などについて質問をするなど熱心な意見交換が続いた。

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写真2 公募型オープンイノベーションについて説明する村西マネージャー(右手前)と中西課長代理(右から2人目)。意見交換する藩助理(一番奥)

スマホ画像を立体的に見る装置

 中国ブースの展示内容の中でもひときわ参加者の興味をひいたのが、浙江大学の実演する3Dバーチャル・リアリティーヘルメットである。これは同大学常州工業技術研究所のチームが開発したもので、携 帯向けの重さ290グラムの装置である。

写真で見るように、小型装置にスマホなどをセットするだけで360度のパノラマ画像を見ることができる。眼鏡をつけたままでも使用できるしゲームでも楽しむことができる。

 筆者もヘルメットを借りて見たが、視界の中はまるで立体映画画像を見るような光景が広がり、素晴らしい眺めだった。日本円で、2000円程度で販売しているという。

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写真3 この通り。手放しで立体画像を見ながら楽しむことができる。

ベンチャー企業創業者らがビジネスシーズを検索

 清華大学サイエンスパークに所属しているベンチャー企業創業者、ベンチャーキャピタル社の社長らが、日本の大学や企業の成果の中で、自分たちで実用化できる技術を検索していた。

 清華大学出身でベンチャー企業を立ち上げた李勃社長は、大阪工業大学工学部ロボット工学科の小林裕之教授の「二次元コードを用いた自立ロボットのナビゲーション」に興味を持った。

 このナビゲーションは、QRコードの持っている任意の情報をエンコードできる性質を利用して、自己位置を推定する情報を得るだけでなく、誘導経路、進入禁止エリア指定などを持たせることが可能だという。

 たとえば、人間を誘導するためのスマホアプリなどへの応用も可能だとしている。

 李社長は、これをロボット掃除機にセットしたりデパートの案内などにも応用できるとしており、将 来は無人自動車と道路標識などをリンクさせた補助的なナビゲーションに発展できるのではないかと思いついたという。

 ブースを訪れた李社長は、こうした自身のアイデアや考えと開発者の小林教授と意見を交換し、今後の応用利用について話し合った。

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写真4 小林教授(右端)と意見交換する李社長(左端)

炭素繊維を材料にした3Dプリンターでの製品製造

 炭素繊維は軽くて丈夫だが、これを3Dプリンターで製品製造をする新しい手法を開発したのは呉工業高等専門学校の山脇正雄教授である。こ の技術に眼を付けたのも清華大学サイエンスパークのベンチャー企業グループだった。

 炭素繊維を3Dプリンターで応用する技術はアメリカのベンチャー企業がすでに成功しているが、山脇教授はこれを発展させてより形状を柔軟に造形できる方法を発明した。「 積層膜としてはまだ強度でも改善するべき点はあるが、基本的な強化繊維による強度を確保する方向は見えてきた」と語っており、清華大学グループもこの点を評価し、今後の実用化などについて模索するという。

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写真5 炭素繊維の3Dプリンター成形技術について説明する山脇教授(右側)

 李社長らの話によると、中国ではイノベーション・ジャパンのように企業、大学、研究機関が一堂に集まってブースを構え、技術成果を展示してマッチングするような展示会はないという。

 「中国では、企業の研究開発力が小さいので大学発の技術を欲しがっている。日本の大学が中国でこのようなブースを構えて展示すれば、多くの中国企業が集まってくるだろう」と語っていた。

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写真6 清華大学サイエンスパークから来た6人のグループが各ブースの発表内容などについて話し合った。

新式モーターの応用も模索

清華大学サイエンスパークの一行6人は、この後、神奈川県大和市中央林間でモーターの研究開発を行っている株式会社エムリンクの白木学社長を訪問する。目的は、同 社が開発した軽量で大きな出力が出る新型コアレスモーターの実用化と製造などについて意見を交換する予定だ。

 白木社長は、「私たちの技術開発に注目してくるのは圧倒的に中国の人が多い。このような熱意とやる気は、日本にはもうなくなったような気がする」と寂しげだった。