日中大学フェア&フォーラム 開催報告&レポート

世界トップの大学を目指すための戦略について意見を表明―日中大学の代表がパネルディスカッション―

2016年 5月19日 馬場 錬成(中国総合研究交流センター上席フェロー)

 「世界最高レベルの大学を目指して ~高等教育と研究開発の両立をめぐって~」を総合テーマに掲げた第9回日中大学フォーラム(主催国立研究開発法人科学技術振興機構、中国科学院大学)は、開幕の式典のあと、日中大学の代表者によるパネルディスカッションが行われた。時間の都合で各パネリストの発表が主となり、討論の時間はほとんどなかった。

 発表内容の要旨を紹介する。

第1部パネルディスカッション

テーマ:「大学における教育と研究の両立をめぐって」

モデレータ

  • 呉 朝暉 浙江大学学長

パネリスト

  • 段 献忠 湖南大学 学長
  • 関 乃佳 南開大学副 学長
  • 王 乗   蘭州大学 学長
  • 呉 朝暉 浙江大学 学長
  • 袁 駟  清華大学 校務委員会副主任(前清華大学副学長兼教務長)
  • 鵜飼 裕之 名古屋工業大学学長
  • 羽田 正 東京大学理事・副学長
  • 藤嶋 昭 東京理科大学学長
  • 室伏 きみ子 お茶の水女子大学学長

 日中両国の学長の発表内容は、高度の研究なくして十分な教育はできないという点で一致していた。特に人材育成を最重点課題にしている中国のそれぞれの学長は、研究のレベルアップと同時にいかに人材育成に取り組んでいるか、それを強調する姿勢が濃厚に感じられた。

写真1

写真1 モデレータを務めた呉 朝暉・浙江大学学長の挨拶

モデレータ

呉 朝暉・浙江大学学長

 社会の進歩によって大学にはいろいろな付加価値が出ている。社会貢献のますます増加しており大学の役割が重要になってきた。

 大学のガバナンスだけでなく、グローバルネットワークの中で考えることになってきた。このテーマはこれを背景にして行う。

段 献忠・湖南大学学長

 本学の前身は岳麓書院であり紀元976年(北宋開宝5年)からの歴史を誇り、中国政府の重点大学にも指定されている。3万6千人の学生と23の学部・学科がある。土木機械学など伝統的に強い研究分野はいまも引き続いて積極的に展開している。

 社会にサービスする専門教育を目標にしており、重要な課題は人文と理工の融合の中で行っている。またチャレンジ精神も大事にしており、人生とは何か、自然と社会とはどのような仕組みで成り立っているかなども研究の対象としている。

 大学の役割を考えてカリキュラムの内容を吟味し、教育と研究の調和のとれた発展が重要だ。また人事制度も調和のとれたものが重要だ。イノベーションの人材を育成することが最重要課題であり、学生、大学、運営者が共通の意識を持つことが大事だ。

 教師は専門知識を高め、大胆にイノベーションをするべきであり、基礎研究とハイテクの両立を目指して伝統ある大学の役割を果たしたい。

関 乃佳・南開大学副学長

 研究と教育は大学にとって魂とも言えるものである。まず第1に教育に力を入れている。教育をないがしろにすると人材育成できなくなる。教員の講演なども南開大学の講師になるかどうかの評価対象としている。大学の根本にあるのは人材育成にある。

 2つ目は、優秀な学生を重点的に育成することだ。特徴あるカリキュラムを組んでいる。

 3つ目は、大学生も研究に取り組ませている。研究に参加することによって実践的な力が身についていく。

 4つ目は魅力ある講義を作っている。学生が先生を評価する方法を取り入れており、この制度によって教員も積極的にやる気を出している。教員は学生のやる気を引き出す方法を考え、学生の力を伸ばすことに努力している。

 中国の特色ある大学作りを目指しており、これからも積極的な教育と研究の両立を目指していく。

写真2

写真2 関乃佳南開大学副学長の発表

王 乗・蘭州大学学長

 教育と研究を緊密に結び付けていくことが重要だ。研究は教育の基盤であり研究の底力と成果がないと教育の基盤は作られない。本学は教育と研究の双方の均衡ある発展に取り組んできた。

 研究の中で教育を行うということが大事であり、そのためにはハイレベルの研究を行うことが必要だ。人材育成をするための問題意識を明確にするために、教育方法などについても研究を行っている。どのようにして学生に学習の意欲を起こさせるかという教育についても研究している。

 学生は、教員の行っている研究に参加することで、新しい発展をするようになり双方で調和ある教育と研究になっている。

呉 朝暉・浙江大学学長

 イノベーション型の教育の進展が重要だ。世界一流の大学を目指すためには、1つは人材育成のイノベーションがなければならない。2つ目は、リーディング型のイノベーション人材を育成することだ。そのためには大学ガバナンスを改革して新しい大学を創るというイノベーション発展を目指す必要がある。教育と研究の融合による開放的イノベーションを作ることだ。

例えば産学連携では、海外にリンクするイノベーション資源を構築することを目指している。国際的なネットワークを作成することだ。日本の25の大学と国際交流を結んでいるのを始め多くの海外の大学と提携している。本学と京都大学とイノベーション人材の育成を目指してハイレベルの交流を展開している。

袁 駟・清華大学校務委員会副主任

 人材とは作りだすものである。本学は100年余りの歴史を持っているが、100年経っても人材育成が根本になっている。胡錦濤・元国家主席は、「高等教育の任務は人材育成である」と語っており本学の基本方針は国家の理念と同じである。

 大学は人材育成が使命だ。人材の質は、グローバルの立場で見ることが重要だ。したがって本学の学生の半数は海外へ行くようにしている。徐々にこの比率が高くなってきている。学生に言うことは、自分は中国人であり清華大学出身であるということは変えられないが、しかし個々の視野は大きく変えることができる。人類、世界のために視野を広げてほしいと言い聞かせている。

 人材育成が使命だからと言って科学研究を軽んじてはならない。人材育成のために研究をすることで巨木に育てることだ。4年ごとに教育従事者会議、科学研究従事者会議を開いている。教育と科学研究をインタラクティブにするためフォーラムなどを開催し、偉大なる科学者に問題意識をもって参加してもらっている。

鵜飼 裕之・名古屋工業大学学長

 大学の教育と研究の両立をめぐる課題を考えている。本学は日本の中心にある愛知県に位置し、製造業の売り上げは44兆円であり、2位の18兆円(神奈川県)を大きく離している。本学は、1905年に官立の工業高校として設立したものだ。

研究と教育を考えると、いい研究を蓄積することによって教育にもいい効果が出ることは明らかだ。グローバルに活躍できる人材を育成することや企業の技術者を育成することに取り組んでおり研究主体の実践的な教育を行っている。実際に学生が研究に参加するという実践的な教育を行っている。また中小企業を対象に相互に学び合うことで人材育成に結びつけている。

写真3

写真3 鵜飼裕之・名古屋工業大学学長の発表

羽田 正・東京大学理事・副学長

 研究と教育は、一体化しておりどちらにも力を入れている。グローバルの視野を持った知的リーダーの育成、トップレベルの教育と最先端研究が重要だ。自分たちの大学だけではできない、戦略的なパートナーを求めていくことが重要だ。研究者はほっておいても国際的な共同研究を行っている。パートナーは、今後も新興国とも対象となるだろう。限られた大学との緊密で創造的、互恵的な協力関係を構築する。最先端の共同研究をベースに学生の交流と共同教育プログラムの連携も進める。

 たとえば、プリンストン大学とは略的パートナーシップを組んでおり、年間3千万円を双方で用意して学生交流を行っている。また院生論文のワークショップ、サマーラボ、相互研究プログラムなどを行っている。

藤嶋 昭・東京理科大学学長

 本学は特に光触媒の研究に力を入れており、多くの研究と人材育成で実績を蓄積している。また、他の大学にはない火災科学の研究にも力を入れており外国からの留学生も多い。博士課程の学生を増やそうと授業料は無料にしており、企業に勤務していながら進学してくるケースも多い。理工系大学なのでどうしても女子学生が少ないので、今後は女性を増やすことと若手研究者を海外へ派遣することを重点課題にしている。

 教育の充実は最重点課題であり、本学のオリジナル教科書「理工系の基礎シリーズ」を出版し主として1,2年生の基礎教育に活用している。このような基礎知識があって初めて研究の力も発揮できるようになる。学部から修士課程までの6年間を一貫教育と位置付けており、研究は世界トップを目指している。

 中学・高校の教員を養成してきた歴史があり、高校の理科教員に4千人を輩出してきた。

 1週間前に「理系のための中国古典名言集」(朝日学生新聞社)を出版したが、これの教材の一部として活用したい。

写真4

写真4 パネルディカッションでも紹介した「理系のための中国古典名言集」(朝日学生新聞社)
を見せる藤嶋昭・東京理科大学学長

室伏 きみ子・お茶の水女子大学学長

 本学は創立140周年、女子だけの小さな大学だが保育園から大学院まで1つのキャンパスにまとまっている。国際的に活躍できる女性のリーダーを育成するための国際的教育拠点を目指している。人が一生を通じて健康で心豊かに過ごし、生活環境を向上させるイノベーションを創出し、健やかで活力ある日本を作ることを目標にしている。

 また、研究成果に基づく教育効果と本学の教育改革を組み合わせることで教育の高度化を実現していきたい。具体的にはグローバル女性リーダー育成研究機構の研究成果とヒューマンライフイノベーション開発研究機構の研究開発が挙げられる。前者は国際水準の女性研究者の育成であり、後者は理系女性研究者の育成と生涯を通じた教育モデルの提案などである。

 教育改革では、4学期制の導入や学士・修士の一貫した複数学修トラックの導入、英語の授業や高大連携の拡充なども行っている。

写真5

写真5 発表する室伏きみ子・お茶の水大学学長