日中大学フェア&フォーラム in China 2014 - #11
2014年04月18日 中国総合研究交流センター
( その1よりつづき)
厦門大学 朱崇実学長 日中大学フォーラム講演録(その2)
産学研協力は中国で一定の発展を遂げましたが、まだ非常に脆弱で、多くの問題が存在しており、私は次の幾つかの問題が存在すると考えています。
まず、大学の科学技術資源の利用効率と収益はまだそれほど高くありません。第二に、大学と企業の協力の緊密度と制度化はまだそれほど強くありません。第三に、科 学研究活動のテーマ選択や研究の方向性が産業の実際の需要とずれています。第四に、大学と科学研究機関との連携が散発的なものになっています。中 国の科学院や傘下の研究所はどれも独自に独立して人材を育成する条件や能力を備えているため、相対的にいって、中国の大学と科学研究機関との連携は散発的なものになりがちです。第五に、現 行の大学の科学研究評価メカニズムは大学の科学研究者が産学研協力に参与する上でマイナスになります。私たちの(国の)多くの大学の科学研究者に対する要求はなお論文を発表することや、研究所、研究室、実 験室の中にとどまって成果を出しさえすればよしとされ、その成果が社会に多く還元できるかどうか、またはそれをどう推進すべきかについて、あまり関心がもたれていません。最後に、企 業のイノベーションへのエネルギーがまだ不足しており、大学や科学研究機関との協力を制約しています。私は以上のことが最も重要な問題だと考えています。
次に中日の大学の産学研協力の現状と問題についてお話したいと思います。日本と中国は隣国であり、両国には千年に及ぶ友好的な交流の歴史があります。近代には心の痛む歴史の1ページがありましたが、両 国民の関わりや交流は他のどの国も及ばないことを、私たちは認めないわけにはいきません。本日の午前中、木寺昌人大使がご挨拶の中でおっしゃっていたように、日本は常に中国にとって大規模な投資由来国です。中 国側のデータによると、2013年に日本の対中投資は総額70億6400万ドルに達し、シンガポールに次ぐ世界2位となりました。1979年から現在までの投資額を累計すると、日 本の対中投資はすべての海外投資家の中で1位だと考えられます。特に言及すべき点は、日本の対中投資先は主に製造業だということです。これは非常に重要なことです。プロジェクトの30%以 上が製造業のプロジェクトであり、投資資金の60%以上が製造業に投資されているということです。トヨタ、三菱、伊藤忠、住友、丸紅、パナソニック、東芝、NEC、富 士通など日本の大企業のほぼすべてが中国で投資を行っています。
中日間の経済・貿易・投資などでの緊密な連携は、中日の大学の産学研協力に大きな可能性を提供しています。中国の一部の大学は日本の企業、日本の大学や科学研究機関との協力をかなり緊密に行っています。
たとえば清華大学は日立、トヨタ、三菱などの企業との研究協力を展開しています。復旦大学は日立と共同で復旦-日立イノベーションソフトウエア技術共同実験室を設立しました。上海交通大学はトヨタ、ソ ニー、住友などの有名企業と協力関係にあります。大連理工大学は三菱マテリアルと材料分野で研究協力を展開し、日新電機と共同で設備の研究開発や製造に取り組んでいます。こ のたびは資料を準備する時間が十分にありませんでしたが、ほかにも多くの大学が日本の企業と緊密な協力関係にあることを知っています。
本日ご出席の林建華学長がいらっしゃる浙江大学がありますし、中国科学技術大学などもあり、いずれも多くの日本企業と緊密な産学研協力を進めています。厦門大学は新エネルギー、新材料、化学工業、電子、機 械などの分野でTDK、ソニー、川研ファインケミカル、日立、昭和製陶、三菱重工などの企業の中国法人と良好な協力関係にあります。
ただ私たちは次のことを認めないわけにはいきません。米国や欧州の企業、大学、科学研究機関に比べて、中日の産学研協力の広がりと深さははるかに後れを取っており、巨 大な潜在力がありながらそれが発揮されていないという点です。なぜ後れを取っているのでしょうか。なぜ巨大な潜在力がありながらそれが発揮されないのでしょうか。私は主な原因として次の点があると考えています。
まず、政府の誘導が不足しています。米国や欧州各国の政府や非政府組織が設立した、自国の企業、大学、科学研究機関と中国の大学との交流・協力を促進するための基金の数は日本をはるかに上回ります。ち ょうど先週、英国のカーディフ大学のコリン・リオーダン教授から連絡がありました。リオーダン教授によると、英国政府は英中間の科学技術交流・協力を促進するために特別の基金を設立し、そ の規模は2億ポンドに達するそうです。また英国政府が費用を追加して英中両国間の科学技術交流・協力をよりよく促進する方針であるとのことでした。私は今回のフォーラムに参加させていただき、さ きほど中村道治JST理事長とお話した際に、中村理事長に感謝の意を表しました。私は日本の科学技術産業の振興団体が交流・協力の促進に向けてしっかり取り組んでおられることを知っています。中 村理事長がおっしゃるには、今年9月に日本で産学研協力を促進する重要な展示会が行われる予定で、厦門大学も参加を要請されました。私は、厦門大学はチームを組んでこの重要な展示会に必ず参加し、日 本の同業者から大学と企業や科学研究機関との産学研協力をよりよく行うにはどうしたらよいかを学ぶだろうとお伝えしました。私は、全体として政府の誘導がまだ不足していると考えています。
第二に、大学が(日中の産学研協力を)あまり重視していません。日中両国の大学の学長は欧米ばかり見ていて、逆に隣国に対しては見て見ぬ振りをしているような感じがあります。自 校の教員や学生が両国の企業、大学、科学研究機関との協力により多く参与するよう意識的に推進・促進するケースは多くありません。厦門大学もこの点では取り組みが十分ではありません。
第三に、言葉の壁があります。中日は文化的に近い関係にあり、実際には言語の上でも似通った点がたくさんあります。他国の人よりも、中国人が日本語を学び、日本人が中国語を学ぶ方が、よ り容易だといえます。しかし奇妙なことに、現在の中国人学生の日本語学習意欲は低く、日本人学生の中国学習熱も高くありません。言葉が通じないことが、協力の障害の一つになっています。こうなるのは、政 府の誘導不足や大学が(日中の産学研協力を)あまり重視していないことと密接な関係があります。厦門は福建省の南部にあり、閩南地方に位置し、聞くところによると、閩南語と日本語は似通った点が多く、閩 南語を話す人は日本語学習のペースが速いといいます。日本語の発音には閩南語の発音と基本的に同じものが多いからです。中日は文化的に近い関係にあり、言語にも似た点が多いにも関わらず、現在、私 たちと日本からのお客様との交流や日本の同業者との交流がほとんど英語で行われているのはなぜでしょうか。
最後に、日中の大学の産学研協力の強化について若干の考察を行います。
まず、揺るぎない信頼が必要です。日中は一衣帯水の隣国で、文化的にも経済的にも自然に発生した、切っても切れない繋がりがあります。こ のことは両国の大学が産学研協力により多く参与する上で最良の前提と土台を提供してくれます。政府は産学研協力の誘導を強化し、両国の大学がより多く、より広く、より深い交流・協力を促進し、企 業がその研究開発に両国の大学をより多く参与させるよう奨励しなければなりません。特に両国がともに直面する環境、生態、海洋、エネルギーなどの問題の解決方法を共同研究する必要があります。日 本と中国は一衣帯水で密接な関係にあり、両国を隔てることはできません。日本の福島原子力発電所で問題が起こると、日本人も中国人も不安になり、福島原発から放射性物質が漏れ出し、海水に乗って、厦 門に到達することを心配します。北京や上海に煙霧が出現すると、中国人も日本人も不安になり、風に乗って煙霧が東京に到達することを心配します。思うに、こ のような両国がともに直面する一連の課題や問題に直面した場合、私たちはより多く協力し、解決する方法をともに考えなければなりません。政府はここで十分な役割を果たし、その能力を発揮しなければなりません。
第二に、大学自身が日中間の交流・協力をより重視する必要があり、日中両国の大学は真剣に検討し考慮しなければなりません。今は厦門を含め、毎週、直航便数便が日本に飛んでいますし、他 の諸都市については言うまでもなく、数時間で日本に到着し、時差の問題もありません。両国の地域間の交流はこれほど便利で、文化的にも経済的にもこれほど緊密に連携していながら、両国の大学間の交流・協 力がかなり不足しているのはなぜでしょうか。とりわけ産学研協力への参与がかなり不足しているのはなぜでしょうか。原因はどこにあるのか、どのように解決するべきか。私 はこれを両国の大学の学長がともに重視すべき問題であると考えていますし、私たちは問題の在処を真剣に考察しなければならないと考えています。
第三に、最大限の努力によって言葉の壁を克服しなければなりません。中日両国の学生が英語に堪能であるなら、日本語または中国語がうまくならない理由はどこにもありません。カギは私たちの大学、政府、社 会が、学生をしっかと誘導できるかどうか、しっかり支援できるかどうかです。厦門大学の外文学院の通訳・翻訳センターは、通訳・翻訳の専門の人材を育成する優れたセンターです。厦門大学の通訳・翻訳センターは、も ともとは英語の通訳・翻訳人材だけを育成していましたが、今年からは、日本語も加わり、日本語のハイレベル通訳・翻訳人材を育成しようとしています。
私は、私たちがともに努力していくことを確信します。中日両国の大学は両国の友好の発展と繁栄隆盛に向けて、必ずや新しい貢献、より大きな貢献をすることができるでしょう。ご 静聴どうもありがとうございました。