2021年9月のレポート

インド半島におけるCOVID-19のパンデミック

Dr. Dhivya Bhoopathy 獣医学修士
タミル・ナードゥ動物獣医学大学(南インド・タミルナードゥ)
マドラス獣医大学(チェンンナイ 600 007)
獣医寄生虫学部
助教授

インドでのCOVID-19の現在の状況
2021年9月12日時点でのデータ

累計感染者数 33,236,921
2021年9月12日の新規感染者数 6,595
2021年9月12日時点での患者数 384,921
退院患者数(累計) 32,409,345
2021年9月12日に退院した患者数 34,848
2021年9月12日時点での累計死者数 442,655
2021年9月12日にCOVID-19が原因で亡くなった患者数 338
2021年9月11日にRT-PCR法で検査したサンプルの数 1,530,125

COVID-19:第一波と第二波―ロックダウンと解除

インド半島でのCOVID-19の感染者は2020年3月に増え始め、2020年3月22日、国家規模の最初のロックダウンを行うという命令(Janta curfew)が出されました。それから2020年3月25日から段階的に完全なロックダウンが行われ、何か月も続き、2020年5月17日まで必要不可欠なサービスを除くすべての民間企業や官庁は閉鎖されました。その後は州ごと、感染者数に応じて一定の間隔で解除とロックダウンが交互に繰り返されました。COVID-19の第二波はマハーラシュトラとデリーでは3月初旬、タミル・ナードゥでは4月末に始まり、2021年5月10日からロックダウンが行われました。感染が安定してから徐々に解除され、2021年6月7日まで続きました。その他のインドの州では、感染者数に応じて異なるロックダウンと解除のガイドラインが制定されました。完全なロックダウンの最中、すべての公園、体育館、モール、劇場、寺院や教会やモスクのような礼拝所、動物園、プール、大きな食料品店は閉鎖されたままでした。公共交通機関は利用できず、自家用車の使用は必要不可欠なサービスを受けに行く時や急いで病院に行く必要がある時のみ許可されました。ロックダウン中、医療用品や器具の製造など必要不可欠な企業のみが営業を許されました。

インドが直面した難題と政府による施策

難題

  • インドのような経済的な発展の最中にある国が直面した最大の難題は雇用の損失でした。とりわけ農業労働者、自動車またはタクシーの運転手、日雇い労働者、大工や電気工や配管工のような自営業者、露天商のように日単位で報酬を得る労働者は仕事を失いました。これらはほんの一部にすぎません。仕事を失ったことで、労働者の家族の生活にも影響が出て、家計をやりくりしていくのにも一苦労しました。
  • すべての公共交通機関が閉鎖され、生活に不可欠な部署に勤める人をはじめとする政府職員の通勤が困難になりました。
  • 医者や衛生に関わる労働者、看護師や薬剤師のような医療サポートスタッフは24時間毎日働き続け、隔離されて家族とは何ヶ月も会えなくなりました。
  • 生活に必要不可欠なサービスで働く多くの人々は命を落とすことがあり、多くの子どもたちは片親もしくは両親を亡くしました。
  • パンデミックにより国の経済は悪化し、株式市場では史上最悪の数値を記録しました。
  • 酸素吸入の設備がある病床は限られているため、とりわけ第二波には病院でベッドが不足しました。

施策

  • タミル・ナードゥだけでも何千人という若者を対象に毎日戸別訪問によるモニタリングと検査が実施されました。
  • 非常に多くのCOVID検査センターが設立されました。
  • 公立の学校、大学、政府機関に十分な数のベッドがあるCOVID治療施設や隔離センターが設置されました。またいくつかの地域では、公立病院および民間の病院に加えて、病院列車が設置され、パンデミックに取り組む準備が整えられました。
  • 症状が軽い場合は自宅隔離が勧められました。しかし、医師は自宅隔離をしている患者のことも入念に経過観察を行っていました。自宅隔離者のための緊急の電話サービスも提供されました。
  • 救急車の数を増やし、民間企業の車も救急車として使用できるよう配備しました。
  • 外出時のマスクの着用を義務化し、公共の場所すべてに消毒液を設置しました。
  • パンデミックの期間中は、無料で食料品を配給し、必要な食糧が国民に行き渡るようにしました。
  • 前代未聞のパンデミックが起きている最中は多くの人が失業したり、給料が半分になったりしているので、インド準備銀行はローンの返済の猶予期間として6か月設けることを発表しました。
  • 学校や大学は完全に閉鎖され、授業や試験はGoogle Meet、CISCO WebEx、Zoom、Google classroom、Microsoft Teamsなど様々なオンラインのプラットフォームを使って行われました。
  • 政府はインターネットに接続できない場所に住む学生に向けて教育番組をテレビで放送できるよう、教育チャンネルも始めました。
  • ロックダウンの最中は、野菜や果実を訪問販売で売るようにし、毎日の食料品を手に入れられるようにしました。
  • COVID-19の予防策について書かれたバナーやポスターが公共の場所すべてに掲示されました。
  • ロックダウン中、ホテルや食堂は宅配サービスを行うことだけが許可され、施設内での飲食の提供は停止されました。営業時間は午前6時から午後1時までと午後6時から午後9時までとなっていました。
  • タミル・ナードゥのようないくつかの州では、配給に使うスマートカードを持つすべての人にCOVID救済金として4000インドルピーが給付されました。
  • 政府はCOVIDやワクチンの接種状況を観察・追跡するためにArogya SetuやCoWinなどのアプリを開発しました。
  • 様々なマスメディアのおかげでCOVID-19の予防策や治療または電話相談に関する一般認識が形成されました。
  • 政府は特に重症患者にレミデシビルのような薬や酸素ボンベを絶えず提供できるようにしました。
  • 政府は民間の病院での治療費に関しても規制を作り、どこの病院でも治療費が同額になるようにしました。
  • 政府を薬や手袋やマスクなどの医療用品の価格に関する規制も作りました。
  • タミル・ナードゥ州政府はCOVID-19により両親を亡くした子どもたちのリハビリと保護をする計画を実行するよう指令を出しました。その計画の下で両親を亡くした子どもたちの教育を卒業するまで無償化し、金銭面での支援を行います。

治療とワクチン

病院や隔離センターでは栄養価の高い食事の提供に加えて、対処療法が行われました。Kabasura Kudineer (シッダの薬)のような伝統薬を国民が使用できるようにし、各家庭にも配布されました。レミデシビルは重症患者に対して使用されました。免疫力を高めるArsenicum albumというホメオパシーの薬もパンデミックの最中に幅広く流通しました。

インドで接種できるワクチン

コビシールド® (インドのセラム・インスティチュートが製造したアストラゼネカのワクチン)や コバクシン® (Bharat Biotech社によって製造されたもの)という2つのワクチンの緊急使用が中央医薬品標準管理機構(CDSCO)によって認められました。2021年4月、スプートニクVも緊急使用が 認められました。2021年9月11日時点、累計で7,286,883回接種が行われています。ワクチンの80%は無料で接種することができますが、民間の病院に供給された20%のワクチンは有料となっています。コビシールドを接種するのには750ルピー以上、コバクシンを接種するのには1250ルピー以上がかかります。ワクチン接種証明書はCoWinのポータルでダウンロードできます。

まとめ

COVID-19のパンデミックによるロックダウンにより一部の人は救われましたが、大多数の人々は愛する人を亡くしたり、失業したり、隔離や巣ごもり生活により心理的なストレスを受けたりして、最悪の事態に襲われました。また、「この世に生きている者の生命は不確かなものだ」という基本的な考えを思い知る機会にもなりました。ロックダウンにより、多くの人は貧しい人に食料を分け与えたり、野良犬に餌を与えたりするなどチャリティーに参加し始め、心の中に秘めていた思いやりを示すようになりました。COVID-19のように病気による弊害は目に見えるものの起源が分からない伝染病は愛や思いやりというものこそ人間がこの世に存在する上での本質であるという教訓を私たちに伝えます。

図1:タミル・ナードゥのチェンナイの食料品店。
ソーシャルディスタンスを保つための目印が書かれている
図2.:青果店に掲示されたGreater Chennai Corporationのバナー。
入店する際にはマスクを着用するようにと書かれている
図3: COVID-19ワクチン接種会場にあるバナー
図4: COVID-19のワクチン接種を待つ人々

注)原文からの和訳はJSTによるものです。正確な表現やデータについては、英語原文をご参照ください。(原文はこちら