2017年度 活動レポート 第308号:横浜市立大学

2017年度活動レポート(一般公募コース)第308号

ネパールの若者が災害に強い都市環境整備を学ぶ

横浜市立大学グローバル都市協力研究センターからの報告

横浜市立大学グローバル都市協力研究センターまちづくりユニットでは、さくらサイエンスプログラムの支援をうけ、ネパール・バクタプル市のクォパ工科大学から大学院生・研究生10名、教員1名の計11名を招へいし、「震災からの都市復興 —災害に強い都市環境整備を学ぶ—」をテーマとするスタディ・ツアーを実施しました(2017年11月14日~22日)。2カ年事業として採択を受けた活動の2年目にあたります。

ネパールは、2015年4月の震災からの復興の過程にあり、建築・都市計画の分野においては災害に強いまちづくりがひとつの重要課題となっています。特にバクタプルのような歴史的市街地の復興に際しては、有形無形の文化遺産の保全、都市環境の改善、社会経済の発展、コミュニティ参加の促進、住民の経済的自立、そのための法制度整備といった多岐にわたる課題を同時に解決していくことが求められています。

本活動では、横浜、東京、東北と場所を変えながら、講義と現場見学を通し、日本の都市計画やまちづくり、防災、歴史的環境保全の取組みの一端を紹介するとともに、招へい学生たちがネパールの震災と復興について発表し、日本の学生と意見交換をする機会を設けました。

見学と講義

(1)横浜の都市デザイン
横浜の都市デザインについての講義をうけた後、関内からみなとみらいへと巡るまちあるきを行いました。講義では、横浜も関東大震災、横浜大空襲によって壊滅的な被害をうけ、それを乗り越えて復興を遂げた都市であること、またその復興計画について学びました。講義の内容を確認しながらまちを歩く中では、歩道が整備されていることによる歩きやすさ、道路・建物の整備状況、さまざまなサインに特に関心を寄せていた様子でした。

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横浜の都市デザインについての講義
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関内からみなとみらいをめぐるまちあるき
 

(2)日本の防災の取組み
本学が位置する横浜市金沢区の町屋地区を事例として、防災まちづくりの取組みを学びました。はじめに、地区の防災まちづくり計画の作成・実施に継続して関わっているまちづくりプランナーの櫻井氏および自治会長さんの案内のもと、地区内を歩き、防災まちづくり計画の説明を受けながら狭あい道路や避難施設の状況等を実際に確認し、その後、大学に移動し、計画のコンセプトや計画策定プロセス等について説明をうけました。

災害に強いまちづくりや良好な都市環境形成に求められる方策とそのための住民との対話といった観点では、ネパールの歴史地区が抱える課題とも通じる部分があり、地域に適した形に応用していく方法を考えたいという声があがりました。また、防災教育の方法として、地震や火災のシミュレーター、トレーニングルーム等を体験できる横浜市民防災センターを視察し、体験ツアーに参加しました。市民一人一人が災害と災害への対策を学ぶ施設として、大いに関心を示していました。

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横浜市民防災センターでの体験ツアー

(3)東日本大震災と復興
東日本大震災からの復興の取組みを学ぶため、三陸地方をめぐりました。女川、石巻、南三陸町、気仙沼、大船渡の順に北上し、仮設住宅や災害公営住宅、高台移転地、新設の商業施設等を訪れ、住宅再建とコミュニティ再建の方法、産業・商業復興、地域活性化の方策、地域性に根ざした復興計画等を学びました。気仙沼では、リアスアーク美術館も見学し、震災の記憶ののこし方を考える機会を得ました。

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石巻市街地の見学
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リアスアーク美術館の見学
 
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高台移転地の見学
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宿の一室を借りて見学地の予習復習
 

発表

引率教員と学生らそれぞれが、ネパールにおける震災復興の取組みについて本学学生と教員に向けて発表を行いました。同大学では、震災後まもなく、バクタプル歴史地区の復興プロジェクトチームが立ち上げられ、大学独自の研究・調査が進められています。今回は、自らが実際に関わっているプロジェクトについて発表し、その後、質疑応答を行いました。本学学生にとっては、ネパールの震災と復興について、当事者から実際の話を聞く貴重な機会となりました。

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ネパールの震災と復興についての発表

以上のほかにも、都市問題の改善のための国際協力の講義、鎌倉訪問を通した歴史保全等の機会を設けました。学生の感想からは、都市計画や防災計画の一つ一つのプロセスやディテールの大切さ、災害を学ぶ施設の意義、日本の建築技術、歴史保全の手法等、見聞きするものすべてに刺激を受け、多くのことを学んで帰国の途に就いた様子がうかがわれました。また、途上国の学生にとっては、こうした国外での研修の機会は非常に貴重であり、来日できたことを幸運に思うという声も聞かれました。2年にわたりご支援いただいた「さくらサイエンスプログラム」に心より御礼申し上げます。