2016年度 活動レポート 第359号:核融合科学研究所

2016年度活動レポート(一般公募コース)第359号

核融合炉用超伝導マグネット大型低温システム運転制御を学ぶ日中交流

核融合科学研究所准教授 濱口真司さんからの報告

さくらサイエンスプログラムの支援により、2017年3月5日から3月11日の1週間、中国安徽省合肥市にある中国科学院等離子体物理研究所から、若手研究者1名(Lu Xiaofei博士)が初来日し、自然科学研究機構核融合科学研究所において核融合炉用超伝導マグネットの大型低温システムの運転制御の最適化・高度化に関する日中交流プログラムを実施しました。

本プログラムで招へいしたLu博士は、中国の国家プロジェクトとして研究開発が進行している「核融合トカマク装置EAST」を保有する、中国科学院等離子体物理研究所に所属し、そこで低温工学・技術部門において第一線で研究を遂行している、若手研究者です。

これまで、大型低温システムに関して、プロセス設計、自動故障診断手法の開発等を行ってきており、現在は将来の核融合炉の大型低温システム、およびその要素技術開発のための低温試験プラットフォームの設計を担当しています。

そこで、本プログラムにおいては、核融合炉用超伝導マグネットの大型低温システムの運転制御の最適化・高度化に資するため、特に以下の2点を中心に議論を深めました。

写真1
超伝導マグネット研究棟制御室にて 温度可変液化冷凍機のプロセス設計に関して制御画面を見ながら議論する様子
1.大型低温システムのダイナミックシミュレーション
2.低温排気圧縮機を用いたヘリウムサブクールシステム

以下に詳細を報告します。

まず最初に、必要な手続、日本(研究所)での生活に関する簡単なガイダンス等を行った後、核融合科学研究所が有する世界最大級の大型ヘリカル装置LHDの大型低温システムの見学を行いました。

写真2
大型ヘリカル装置LHD用の大型低温システムの見学風景

本低温システムは、適切なメンテナンスと更新、改良等により、20年間に渡って稼働率99%以上で安定して運転を続けている、世界に誇る低温システムです。

ここでは、そのシステム全体について見学、説明を行いました。また、ダイナミックシミュレーションを実施している環境についても見学を行いました。

引き続いて、研究所内の超伝導マグネット研究棟に設置されている、平成24年度補正予算によって整備された温度可変低温設備、および大口径高磁場試験設備の見学を行いました。

温度可変低温設備は、今後応用が期待される高温超伝導体を用いた導体や、機器の開発用に任意の温度のヘリウムを供給することができるユニークな設備で、これと大口径高磁場試験設備を用いることで、核融合炉用の導体を実規模、実環境で試験できます。

ここでは、温度可変低温設備のシステムフローについて詳しく説明を行いました。

ダイナミックシミュレーションについては、岩本准教授のプレゼンテーションの後、マンツーマンでディスカッションが行われました。

写真3
大型低温システムのダイナミックシミュレーションに関してマンツーマンで熱血指導する様子

核融合科学研究所と大陽日酸とで、世界に先駆けて共同開発された「大型低温システム用ダイナミックシミュレータC-PREST」は、現在もITERの委託事業等で使用されており、Lu博士からは矢継早に質問が飛び出し、非常に熱いディスカッションとなりました。

また、ダイナミックシミュレーションに関する世界情勢についても議論がおよび、今後の展開に役立つ有意義な意見交換がなされました。

サブクールシステムについては、Lu博士から中国科学院等離子体物理研究所で導入を予定している、2kWのヘリウム冷凍機のシステム設計に関するプレゼンテーションの後、低温排気圧縮機を用いたシステムの最適化について、議論および検討を行いました。

さらには、低温排気圧縮機と熱交換器を追加し、サブクールヘリウムよりもさらに温度が低い、超流動ヘリウムをも供給できる低温システムの検討も行いました。

今回の滞在中に、核融合科学研究の重水素実験開始のセレモニーが執り行われ、幸運にもファースト重水素プラズマの点火と、その後の記念式典を観覧して頂くことができました。

今後、重水素実験の進展により、核融合科学研究所におけるヘリカル方式のプラズマ理工学研究は、ますます深まっていくと考えられ、その節目となる瞬間に立ち会って頂けたことは、核融合炉開発に向けた今後の研究活動にとって、非常に良い刺激となると確信しています。