2016年度 活動レポート 第354号:大阪市立大学大学院生活科学研究科

2016年度活動レポート(一般公募コース)第354号

リアルタイムPCR法による下痢原性大腸菌の網羅的スクリーニング

大阪市立大学大学院生活科学研究科 西川禎一さんからの報告

大阪市立大学では、2017年2月20日から3月11日の日程で、インドから研修生を受け入れ、共同研究プログラムを実施しました。

研修生Kumarはシューリーニバイオテクノロジー・管理科学大学(Shoolini University of Biotechnology and Management Sciences)の食品技術(FOOD TECHNOLOGY)の学部4年生です。

母国であるインドでは、下痢原性大腸菌が猛威を振るっており、食品の安全確保や、患者および家畜の下痢症原因の究明のためには、的確な検出方法を身に付ける必要があります。

しかしながら、恒温動物の腸管から環境まで広く常在する無害な大腸菌と、下痢原性大腸菌を識別しなければならないため、その検査は極めて難しいと言われています。

今回、我々が先に誌上で報告し、「厚生労働省の研究班によりその有効性について実証試験が進められつつある新技術を修得したい」との要請に応じ研修を行いました。

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当研究室が開発したリアルタイムPCR法による下痢原性大腸菌(DEC)の網羅的スクリーニング法は、英国の専門誌Journal of Applied Microbiology 2009;106:410-20に発表済みです。

これに続いて、博士課程に在籍した中国からの国費留学生とともに、スクリーニングで陽性となった検体から実際にDECを純培養として分離する特殊なコロニーハイブリダイゼーション法も開発し、英国応用微生物学会の雑誌に発表しました(Letters in Applied Microbiology 2011;53:264-70)。

二つの手法を併用することで、DECの一種である腸管病原性大腸菌のDNA型等に基づいて宿主特異性の推定を可能にし、米国微生物学会のApplied Environmental Microbiology 2013;79:1232-40に報告、さらに改良した推定方法による結果をJournal of Applied Microbiology (2017;122:268-278)に発表しました。

これらの調査手法について研修しました。実技指導にはバングラデシュからの国費留学生として博士課程在籍中のParvej Shafiullahが協力しました。

わが国の理系学部と異なり、研修生の在籍校では講義に重きが置かれ、実習実験などは主に大学院で行われるとのことでした。そのため、実験の基礎技術からのトレーニングとなり、3週間の研修では不十分でしたが、それが本人の知的好奇心を大いに刺激したらしく、今後、大学院での日本留学を希望していました。

しかし、大学院入試などの言葉のハンディを考えると、容易ではありません。わが国の大学院留学生数を短期間に増やすためには、

①本国の大学院に入学して講義科目の単位を取得の後に、単位互換としてわが国に留学してきた場合、学位論文の研究だけを行えるようなシステム
②それをサポートする奨学金
③そのシステムによって学生を受け入れている大学を評価支援する制度

以上3点が必要だという考えを、研修を通して持つにいたりました。

今回の研修内容は、研修生が将来食品衛生の現場で働く際には極めて有力な調査手段となるものであり、帰国後も自己研鑽を続けて、疫学調査に本手法を応用し、有益なデータを取得してくれることを期待しています。

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