2016年度 活動レポート 第336号:国立環境研究所地球環境研究センター

2016年度活動レポート(一般公募コース)第336号

森林炭素循環に関わる最先端の観測技術・観測データの解析方法を学ぶ

国立環境研究所地球環境研究センター 梁乃申さんからの報告

国立環境研究所地球環境研究センター では、平成28年6月20日~27日の日程で、中国科学院西双版納熱帯植物園5名(張一平(引率者)、宋清海、武伝勝、高進波、湯顕輝)、昆明植物研究所2名(黄華、劉維暐)、国立台湾大学4名(余瑞珠、李佳怡、李咅蓁、呂姿儀)の合計11名を招へいし、交流プログラムを実施しました。

目的

1997年の京都議定書から2015年のパリ協定までの温暖化対策では、森林を中心とした、陸域生態系における二酸化炭素(CO2)吸収源の保全・強化の重要性を強調し続けています。

しかしながら、地球温暖化に伴って、森林生態系がCO2の吸収源として機能し続けるのか、あるいは放出源に転換するのかという点に関する知見は、依然憶測の域を出ていません。

本プログラム計画者である梁乃申(国立環境研究所地球環境研究センター主任研究員)は、北海道の最北端(北緯45°)から本州・九州・台湾・中国、および赤道付近のマレーシアまでの広域トランセクトを網羅する、多様な森林生態系において、統一した手法(自動開閉チャンバー法)を用い、アジアモンスーン域の代表的な冷温帯林・温帯林・亜熱帯林、および熱帯多雨林におけるCO2の吸収・放出動態に関する定量的な観測研究を、開発・推進しています。

この世界最大規模のチャンバー観測ネットワークの中には、中国科学院西双版納熱帯植物園・昆明植物研究所・国立台湾大学との共同研究で運営する研究サイト(中国雲南省で4ヶ所、台湾で3ヶ所の森林サイト)が含まれます。

そこで、本交流計画は、国立環境研究所が運営する富士北麓のカラマツ林、およびつくばのアカマツ林フラックス観測サイトに設置された、森林炭素循環に関わる観測システムの見学を通し、招へい者に対して世界的にも最先端な観測技術のトレーニング・機器のメンテナンス・観測データの解析方法・学位論文、および国際誌投稿などに関するキャパシティ・ビルディングを行うことを目的としました。

活動内容

=6月20日=
招へい者らは、それぞれ北京や台北から羽田空港に到着した後、マイクロバスで、山梨県富士吉田市に移動しました。現地ホテルにチェックインをした後、「紅富士の湯」という、天然温泉を体験しました。

写真17
天然温泉「紅富士の湯」にて

初日の歓迎夕食会はレストラン「ふじやまビール」で行い、日本の地ビールを味わいました。

写真18
歓迎夕食会

=6月21日=
国立環境研究所が運営する「富士北麓カラマツ林フラックス観測サイト」を見学し、梁主任研究員および寺本特別研究員から、サイトに設置されている森林炭素循環に関する観測機器の説明を受けました。

写真3
富士北麓カラマツ林フラックス観測サイト
写真4
富士北麓カラマツ林フラックス観測サイトに設置されている土壌呼吸チャンバー

招へい者は、富士北麓フラックス観測サイトに設置されている観測機器のメンテナンス作業に参加しながら、機器の性能を学習しました。また、本サイトに設置されている高さ30 mの観測タワーから、日本の代表的な名峰である、富士山を眺望することができました。

写真2
観測タワー

また、サイトからホテルに戻る途中、浅間神社に参拝しました。さらに、夕食(回転寿司)後には、各自で用意した研究発表ファイルを用いて、それぞれ研究内容(修論・D論)について議論を交わしました。

写真8
浅間神社にて

=6月22日=
富士北麓フラックス観測サイトにおいて、梁主任研究員と寺本特別研究員の指導の下で、森林生態系炭素循環に関する植物、土壌サンプルの採集、および分析の前処理方法を学習しました。

その後、マイクロバスで富士山の五合目まで移動し、火山灰土壌と森林限界線を見学しました。11時前に富士山を後にし、東京大学アジア生物資源環境研究センター(田無演習林)に移動しました。

写真5
富士山五合目周辺

東京大学アジア生物資源環境研究センターの練春蘭准教授から、研究内容の説明を受けました。その後、東京大学農学部長の丹下健先生から、田無演習林で推進している研究内容を紹介して頂き、実験施設も案内していただきました。

写真10
東京大学アジア生物資源環境研究センターにて
写真11
田無演習林にて

その後、つくばに移動しました。

=6月23日=
本プログラムの受け入れ機関である、国立環境研究所を訪問し、地球環境研究センターの向井人史センター長から、国立環境研究所の全般的な研究活動に関するセミナーを受けました。
その後、梁主任研究員が国立環境研究所関連実験施設に案内しました。また、寺本特別研究員は、国立環境研究所構内のアカマツ林に設置された森林炭素循環に関わる温暖化操作実験設備の紹介をし、観測手法のトレーニングも行いました。

写真1
国立環境研究所内での記念写真
写真14
国立環境研究所関連施設の見学
写真20
国立環境研究所構内のアカマツ林に設置された温暖化操作実験サイト
写真9
夜間セミナーの様子

=6月24日=
炭素循環に関する研究では、高精度の標準ガスが不可欠です。国立環境研究所地球環境研究センターでは、世界的にも高精度なCO2標準ガスの精製技術が開発されています。
午前中に、CO2標準ガスの精製現場を見学しながら、標準ガスを用いて、観測システムの較正に関する実習を行いました。午後には、JAXA筑波宇宙センターを見学しました。

写真15
国立環境研究所地球環境研究センター向井センター長の講演
写真16
JAXA筑波宇宙センターの見学
写真19
国立環境研究所CO2標準ガスの精製現場の見学

=6月25日=
午前中、農業環境技術研究所(農業・食品産業技術総合研究機構農業環境変動研究センター)を訪問しました。杜明遠主席研究員による、「稲の生産量や炭素収支に及ぼす気候変動の影響」に関する研究講演の後、真瀬水田フラックスサイトを見学しました。
午後には、筑波大学及び筑波実験植物園の見学を行いました。

写真6
農業・食品産業技術総合研究機構農業環境変動研究センター杜主席研究員の講演
写真7
真瀬水田フラックスサイトの見学
写真12
筑波大学にて
写真13
筑波実験植物園にて

=6月26日=
午前中に、筑波山神社・つくば市エキスポセンター・つくば市美術館を見学しました。午後には、バーベキューに参加しながら、研究紹介や訪日の感想を語り合いました。
また、将来的に、日本に留学する計画などについても検討しました。

写真21
つくば市エキスポセンターの見学
写真22
つくば市エキスポセンターの見学
写真23
バーベキューに参加しながら、研究紹介や訪日の感想を語り合いました
写真24
修了証書授与

=6月27日=
招へい者らは名残惜しげに日本を後にし、無事に祖国に帰りました。
今回の招へいに関しては、最新の分析機器や手法、研究内容を学ぶことが出来たと同時に、日本の文化にも触れる事ができたとして、招へい者らからフィードバックを頂いております。