2016年度 活動レポート 第152号:埼玉大学大学院理工学研究科

2016年度活動レポート(一般公募コース)第152号

大気汚染評価のための分析手法を習得する

埼玉大学大学院理工学研究科からの報告

さくらサイエンスプログラム(共同研究活動コース)により、チャンマイ大学(Chiang Mai University)の博士後期課程に在籍する学生1名が、2016年11月1日から11月21日までの3週間、埼玉大学大学院理工学研究科環境制御システムコース物質循環研究室(実施主担当者:関口和彦准教授)に滞在しました。

関口和彦准教授との記念撮影

本プログラムの目的は、チャンマイ市で実際に捕集された粒径2.5マイクロメートル以下の浮遊粒子状物質(PM2.5)に対する成分分析を実施し、招へい学生にチャンマイ市内の主な大気汚染発生源を把握する手法を体験、習得してもらうことです。

これにより、今後のPM2.5に対する健康リスク評価を推進できる研究者を育成するだけでなく、大気環境と健康リスクに関する国際共同研究を東南アジア地域で推進するために必要な、研究拠点の確立を目指します。

日本に到着した11月1日は早朝であったため、午前中のうちに学内の宿泊施設(国際交流会館)への手続きを行い、午後には日本での生活に必要な生活品の購入や学内の施設見学を行いました。滞在中の研修内容についての打ち合わせも行いました。

空港までは本プログラム協力者の学生に迎えに行ってもらいました。日本に着いた時の最初の印象は、「何と近代的で空気がきれいな国なんだろう」だったとのことです。

2日目から、各種分析法や測定データの解析手法に関する研修を開始しました。研究室の学生全体との交流の場を用意すべく、お昼に近くのバイキング形式の日本食レストランで歓迎会を開催しました。

歓迎会の様子

今までに食べたことのない日本食も多々あったようですが、日本食は美味しいと満足してもらえたようです。

研修では、イオン成分や多環芳香族炭化水素(PAH)成分の分析手法、さらには最新の有機マーカー成分の分析手法も体験してもらいました。かなり濃密なスケジュールでしたが、とても積極的に研修に参加し、自分で使える技術として習得しようとの高い意気込みを感じました。

イオン成分分析に関する研修の様子
PAH、有機マーカー成分分析に関する研修の様子

11日目と18日目には交流事業として、2回の学外研究施設の見学を行いました。

11日目は、日本の都道府県に設置されている地方環境研究所の業務と取り組みを知ってもらうために、本プログラム協力者の学生と一緒に埼玉県環境科学国際センター(本プログラム協力者、米持真一主任研究員)を訪問しました。

まずはパワーポイントを使ってセンター業務の概要を説明頂き、その後、様々な環境試料の分析業務の様子や、センター内のPM2.5観測サイトの見学を行いました。

埼玉県環境科学国際センターでの概要説明
センター内のPM2.5観測サイト

併設された環境教育のための展示館を見学した際には、環境改善には研究だけではなく子供達への環境教育も大切であることを改めて認識し、母国における環境行政(政策面だけでなく教育面)についても考えさせられる一面があったようです。

施設見学は午前中に終了したことから、午後は近隣の世界遺産ということで富岡製糸場に立ち寄りました。

富岡製糸場での記念撮影

タイも同様にシルクが名産の国です。繭から生糸を取り出す実演や、絹産業の技術革新に日本が大きく貢献していた事実について、大変興味深く見学していました。

18日目は、当研究室の学生も一緒に国立環境研究所の健康リスク研究室(本プログラム協力者、藤谷雄二主任研究員)を訪問し、自動車排ガスから出るナノ粒子の測定方法やその健康影響評価に関する実験施設を見学して回りました。

ナノ粒子健康影響実験棟前での集合写真
藤谷雄二主任研究員とのディスカッションの様子

自身が健康リスクに関する研究を行っていることもあり、ラットへのナノ粒子暴露に関する研究は大変興味深かったようで、熱心に質問を繰り返していました。

本プログラムでは、大気試料の基礎的な成分分析だけでなく、特殊な微量分析も体験してもらったため、各種分析手法の習得では細かい手技に最初は難航していたようです。

それでも、最終的には自身で分析できるレベルまで達し、帰国後には学んだ分析手法を役立てたい、と意気込みを語っていました。

最後には研究室の学生と合同で研究成果発表会を実施し、その後、修了証書と記念バッジを授与しました。また、本プログラムの成果を基に、実際に共同研究が動き出すこととなり、数ヶ月後には再来日を予定しています。

研究成果発表会の様子

研究室におけるコミュニケーションはすべて英語であったことから、研究室の日本人学生にとっても、国際性を高める上で貴重な経験となりました。

週末には本人が希望する観光地やグルメツアー、ショッピングなどに研究室の学生が同行し、様々な日本文化にも触れることができたようです。

最も行きたいと希望していた、富士山周辺の観光地にも足を延ばすことができました。富士山を間近で見た時には、本当に感動を隠せなかったようです。

3週間という短い期間ではありましたが、積極的に研修をこなすだけでなく、週末には様々な観光地を訪れるなど、充実した時間を過ごせたようです。

事後評価でも大変満足したとの評価を頂いており、今後の共同研究の進展に期待が持てる結果となりました。