2015年度 活動レポート 第30号:豊橋技術科学大学 藤原孝男 教授

特別寄稿 第30号

インダストリー4.0(第4次産業革命)に関するMOTの可能性
藤原 孝男

執筆者プロフィール

[氏名]:
藤原 孝男
[所属・役職]:
豊橋技術科学大学教授
 
プログラム
1日目 中部国際空港到着
2日目 開講式、学内施設EIIRIS見学、本多電子(豊橋市)見学
3日目 ヤマザキマザック(美濃加茂市)・オークマ(丹羽郡大口町)見学
4日目 学内の学部学生との議論(金融工学)、院生との議論(技術管理論)
5日目 トヨタ(豊田市)・デンソー(刈谷市)の見学
6日目 豊田市役所職員との議論、豊田商工会議所会員との議論
7日目 徳川園・トヨタ産業技術記念館の見学
8日目 帰国
 

送り出し国・機関

インドのインド理科大学(Indian Institute of Science)・経営研究科(Department of Management Studies)の大学院生10人で修士課程学生6人(内女子学生1名)及び博士課程学生4人(内女子学生1人)の構成である。IIScはインドの理系大学のトップスクールであり有名なIITの合格率1〜2%に対して0.5%の合格率といわれている。今回は技術管理(Management of Technology)を学ぶ学生が中心で、現在の課程に進学以前にほとんどの学生はソフトウエア・電子工学・冶金工学などを専攻してから経営学を学んでいる。また、博士課程院生の1人は機械工学の学士取得後に修士課程を経ずして進学している。

プログラムの概要

テーマは「バンガロールと愛知県との間のインダストリー4.0(第4次産業革命) への移行に関するMOT(技術経営)の可能性について」であり、背景としてインドのバンガロールなどがソフトウエアを中心にInfosysなどの成功企業の出現後に、対中国を念頭に「ものづくり」を次の産業育成のテーマにしている状況がある。IIScの経営研究科では、ハイテク企業集積地での従来のICTの蓄積に「ものづくり」の技術を融合する経営戦略の研究が行われている。
他方、本学や、特に地元の豊田市を中心とする自動車産業での世界的な「ものづくり」拠点は、今後、ICTとの融合による「ものづくり」のデジタル化に向けたMOTに強い関心を持っており、両地域間の産学交流は、従来のインドから米国シリコンバレーへの優秀な人材の奔流を修正する可能性も含んでいると期待できる。
その第一歩として、地元の自動車産業集積とIIScとの連結の仲介による海外若手人材の関心度の調査及び頭脳交流の可能性と課題の検証に主要な目的があった。その結果、学生は、産官学の組織に触れることになった。

12月14日学内先端施設見学

12月15日 オークマ見学

交流の特徴と成果

学内での当該MOT研究グループの院生との研究発表・議論での研究交流や、関連授業での学部学生との議論での意見交流での専門の内容に加えて、同世代間の日常的生活についても意見交流や食事・買い物を楽しんだ。帰国後も米国の研究者の紹介依頼やインターネットの学術交流サイトへの接続依頼が来たり、逆に来日の印象のレポート提出を要請したりしている。
特に、来日学生に最も評判が良かったのが、学内の半導体製造施設でのクリーンルーム内の見学や、市内企業(本多電子)及び尾張の工作機械メーカー(ヤマザキマザック・オークマ)並びにトヨタ関連企業(トヨタ・デンソー)での工場見学・質疑であった。本多電子の超音波博物館での展示の説明を受け、工作機械の製造工場がサイバーファクトリー化している内容を見聞し、トヨタ生産方式のオリジナルを観察し、デンソーでの洗練された生産システムについては工学的な内容に加えて、几帳面なものづくりの精神や技能士の名札を掲示して熟練者を讃える文化が新鮮に映ったようである。

12月16日 大学院生とのMOTグループディスカッション

12月18日 豊田商工会議所会員とのワークショップ

また、個別に豊田市産業振興課と豊田商工会議所とにおいて、「デジタルものづくりに関する両地域の交流可能性」に関する研究発表・集団討議を通じた地域間交流の可能性・課題を調査する内容では、豊田市周辺の下請け企業による縦型の産業集積と、米国・英国に続く世界第3位のベンチャー大国インドでの大学周辺の水平型産業集積との相違がプレゼン及び議論の中で顕著になった。
間接取引の海外市場を別にすれば、直接的には国内市場志向の実務家とインドのバンガロールでのソフトウエア・ベンチャーでの国際的な開発・取引を日常的に経験している院生との間の考え方・感じ方の相違が明確に現れ、予想以上のギャップを検証した。現状では、バンガロールからシリコンバレーへの人材の流れを豊田地域に修正するには巨大企業を除けば時間が掛かりそうである。加えて、トヨタ幹部とのFCV開発やインド市場でのコンパクトカーの市場割合に関する議論も白熱し、具体的で建設的であった。
最終日における徳川園鑑賞では日本の伝統的な文化を直感的に理解し、園内散策が好評であった。また、トヨタ産業技術記念館では、中部圏が繊維産業から自動車産業に移行した流れを体験的に理解できたようで好意的な意見が多かった。

本学学生にとってはインドの将来の中核的な人材に間近に触れ、大学としては今後の発展が期待されるインドとの交流の必要性の理解が進んだ。
現在、インドに進出中の1300社の日系企業のほとんどは大企業であり、今後、インドのソフトベンチャーと日本のものづくり中小企業との交流は、日本のベンチャー・エコシステムの向上に有効であると思われる。こうした産学で海外の人材との交流には、日本の文化が持つ「ソフトパワー」も活用すべきと思われる。

将来の課題と展望

本プログラムは科学技術振興機構(JST)の支援が充実しており、送出し機関でも人気が非常に高く、もっと多くの学生を受け入れてほしいという強い要望が聞かれた。本学の限られた設備・体制の下で実施するために今回は10名のみを受け入れることになったが、可能であればもう少し受入れ人数を増やしたいところである。また本プログラムの主旨は先に述べたとおり「異分野交流」であるが、海外留学生を受け入れるだけではまだ一方通行の交流であり、本学からも出向き、継続的な相互交流になるのが理想である。今回、参加者の送出し機関には、本学からもグローバル人材育成支援事業のプログラムにより学生を送ることで相互交流を続けてきた。さくらサイエンスプログラムは受入れ支援の体制が整った素晴らしいプログラムであるが、ぜひ「相互」という観点から送出しのプログラムも盛り込み、今後の事業に展開していただければさらに成果があがるものと考える。
いずれにせよ、本プログラムで送出し機関の学生が日本をよく知り、留学・就職を検討するモチベーションに与える影響は大きい。彼らの指導教員からの期待も大きく、今後もぜひ継続的に続けてほしいと強く希望している。
本学ではこれからも海外との学術・研究交流を深め、グローバル人材の育成を推進していきたいと考えている。