2015年度 活動レポート 第5号:三重大学副学長、教育学部 後藤太一郎 教授

特別寄稿 第5号

日本の高校理科教育を学び先端技術を研修
三重大学の国際的な教育活動の展開
後藤 太一郎

執筆者プロフィール

[氏名]:
後藤 太一郎
[所属・役職]:
三重大学副学長、教育学部教授
 
  プログラム
1日目 午前 到着
午後 日本の教育事情(講義)、学生の交流
2日目 午前 高校理科教育と教員養成教(講義)、学長表敬訪問
午後 学内施設見学・学生交流、国際交流センター訪問
3日目 午前 物理実験(教育学部)
午後 津高等学校訪問、授業見学および高校生との意見交換
4日目 午前 三重大学工学研究科・研究室訪問
午後 生物学実験(教育学部)
5日目 午前 三重県立総合博物館見学
午後 化学実験(教育学部)、地学実験(教育学部)
6日目 午前 大阪市立自然史博物館見学
午後 大阪市立科学館見学
7日目 午前 名古屋市内・科学商品販売見学
午後 名古屋市立科学館見学
8日目 午前 三重大学研究室見学、生物学講義(教育学部)
午後 四日市高等学校訪問、授業見学高校生および教員と意見交換
9日目 午前 成果報告会および意見交換
午後 プログラム修了式
10日目 午前 帰国
 

実施目的とプログラムの概要

プログラムは、6月29日から7月8日にかけて実施し、ホーチミン市師範大学(HCMUP)で物理教育または化学教育を専攻する学部生・大学院生から選抜された10名と、引率教員としてHaiさんを含む2名が参加しました。
三重大学は、現在101大学と協定を締結しており、数々の国際的な教育活動を展開するとともに、留学生受入数も年々増加しています。ベトナムにおける協定校であるHCMUPからは、毎年、日本語研修として6-8名の日本語専攻の学生を受け入れていますが、これまでに教員養成に関する交流は行なわれていませんでした。
物理教育を専門としている Dr. Nguyen Dong Hai(以下、Haiさん)から、理科教育関係での交流活動の要望があったことから、昨年12月に訪問したところ、高校理科教員を目指している学生数は一学年に約400名と多く、日本の理科教育について関心が高いいことを知りました。そこで、「ベトナムにおける高校理科教員養成のための科学教育支援」のプログラムを企画し、さくらサイエンスプログラムへの申請を計画しました。
この交流計画では、日本の理科教員養成に関する大学での講義や実験の受講をはじめ、高校の授業視察や高校生との交流を通じて、日本の高校理科教育を学ぶとともに、先端技術を紹介している科学館で体験活動を行うことで、探究型理科教育のあり方について考えてもらうことを目的としました。

教育学部で実施した物理実験での取組
教育学部における生物学実験でのグループ学習

プログラムの成果

プログラムの1つとして、参加者には、教育学部における理科教育関係の実習に参加してもらいました。物理実験では、パスカル電線と名付けられている簡便な実験装置を用いて電気と磁気に関する6種類の実験が行なわれました。考えながら実験することで電磁誘導のメカニズムを理解できるようになり、アイデア次第で経費もかからずに優れた教材ができることを実感していました。地学実験では手作り望遠鏡キットの組立をしましたが、ベトナムでは望遠鏡による観察は一般的でないようで、とても感動していました。また、高校訪問では、理科室の整備状況や、天体ドームの設備に驚いていました。天文教育には特に関心を持ったようで、お土産としても科学館で望遠鏡キットを購入していました。
帰国前日の報告会では、参加学生は、10日間の経験は今後のキャリアに重要であり、三重大学での授業、高校訪問、科学館での体験などは、これから理科教育を進める上で、多くのアイデアを提供してくれ、また、将来、教員として教えるためのモチベーションとインスピレーションを与えてくれと熱く語っていました。引率者のHaiさんは、「理科教育者として、科学が子どもや生徒、市民に何をもたらすかを考えているが、今回のプログラムで、単純で楽しい方法で科学を教えるための多くのアイデアをもらった」と述べていました。

工学研究科における先端研究室訪問
津高校における化学実験の参加

受入機関として得たこと

教育学部での実習の中で、各グループに参加学生2名ずつが加わってもらうことがありました日本の学生は。参加学生の積極的な学習態度は大きな刺激を受け、主体的に取り組みました。留学生と日本の学生がともに学ぶ重要性を再認識し、留学生受講受入可能な授業の整備は欠かせないと思いました。
高校での授業見学や意見交換は、高校生にとってもメリットが多く、多くの質問に対応するために、英語力の必要性を改めて感じていました。訪問校は、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)校やSGH(スーパーグローバルハイスクール)校であったことから、科学部の生徒は、自分たちの実験を英語による紹介を準備してくれました。このような留学生の訪問は、高大連携の一環として、高校側からも歓迎されました。

今後の展望

ベトナム政府は、教育改革を再優先として取り組んでいます。Haiさんはまだ32歳の講師ですが、米国カンサス州立大学で物理教育の学位を取得し、HCMUPの理科教育のリーダーとして、教育改革をはじめ、大学の国際化に努めています。参加学生の中には、教員になるべきかどうか迷う学生もいたようですが、教育への関心が一層高まり、教員になって自分が進むべき道が膨らんだと語っていました。
短期間ですが、今後の生き方をかえるほど影響を与えるものとなるため、改めて責任を感じた次第です。参加者全員が、さくらサイエンスプログラムに感謝し、このような機会を今後も継続してほしいと願っていました。受入機関としても継続を進め、さらに多くの学生に新しい教育観をもって貰う機会を提供するとともに、本学の学生にも熱心なベトナムの学生の姿から学んでほしいと思っています。

修了証を受けた参加者