2015年度 活動レポート 第3号:北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科 前園涼 准教授

特別寄稿 第3号

ラマダンの夏と電子状態計算
前園 涼

執筆者プロフィール

[氏名]:
前園 涼
[所属・役職]:
北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科准教授
 

1.さくらサイエンスプログラムの実施内容

2015年7月5日~7月23日の日程で、「スパコンを用いた電子状態シミュレーション」を題材に、「タイ・マヒドン大学・化学科1名」、「インドネシア・バンドン工科大学・応用物理学科2名」、「マレーシア工科大学・物理学科3名」、「インド工科大学カンプール校・電気工学科2名」からの学部学生計8名を受け入れて実習形態の研修を企画・実施しました。

プログラム前半では、参加者が自作PCをパーツから組み上げ、並列計算機を構成し、電子状態シミュレーションの高速化を体感するという課題に取り組みました。この前半部では、本学側大学院生がJSTサイエンスキャンプなどでの実施経験を活かして講義を主体的に進めてくれたため、参加者にとっても、質問や不明な点を率直に相談しやすく、真に双方向コミュニケーションが確保されたスタートアップとなりました。

クラスタ構築

自らの手でコマンドを使って、共有ファイル領域のマウントし、この領域を介した並列計算を、根本的なコマンド操作を組み合わせて実行する実習を通じて、参加者は、並列シミュレーションの原理的な仕組みを学びました。また、並列コア数に応じて演算時間が減少する様子を、実測しプロット解析することで、並列化効率を実機で経験しました。

続いて、参加者達は、各自の端末から、本学所有のスパコンにログインし、一連のシミュレーション実習を経験しました。参加者らは皆、電子状態計算の研究室出身でしたので、スパコンの圧倒的な速さに驚嘆していました。

一週目中盤には、本学基礎教育院の川西教授による3時間に亘る「日本文化に関する講義」を受講しました。一週目終盤には、一連の全体チュートリアルを終え、8名の参加者は「物質表面の吸着に関する電子状態計算」、「フォノン物性に関する電子状態計算」の二手にわかれ、各自の端末とスパコン資源を用いた本格的な研究プロジェクトに参画を開始しました。

プロジェクト研究以降は、会場をゼミ室から研究室内に移し、正規生と同様、研究室内で時折、談話したりくつろぎながら「大学院生としてのラボ生活」を体験することとなりました。

一週目週末とラマダン明けの火曜日には、地元・加賀地区の九谷焼陶芸館や、金沢市の史跡の見学が企画されました。特に、金沢市史跡見学には、金沢の認定ガイドでもある川西教授が随行し、先立って行われた日本文化講義の内容とも連携した、内容の濃い史跡ツアーを経験する事が出来ました。

金沢城にて

最終日には、各プロジェクトのまとめについて議論や質問のセッションが設けられました。

最終日発表

2.さくらサイエンスプログラムの効果について

プログラム前半の実習では、国籍や性別の違う2名ずつで一組になり、協力してLinux計算機システムを構築するという内容から、参加者間交流、及び、TAとして協力してくれた本学所属の日本人学生との交流が自然と進む構成となりました。

期間中、参加者の大半を占めるイスラム教徒にとってラマダン(断食月)が開催期間と重なりましたが、これが逆に功を奏し、日中のプログラムが終わると、参加者は研究室に集まって、日本人や非イスラム教徒も含めて、日没後の会食を一緒に楽しんでいました。

「日本文化に関する講義」の受講では、日本社会独特の行動様式や社会慣習が、どのように形成されてきたのかを歴史的流れという視点から眺めると、あるパターンが見えてくるという内容を通じ、参加者各々が今後、自国の将来にどう向き合い貢献するかを深く考える機会となりました。

日本文化講演

週末の見学研修、特に、金沢市史跡見学では、特に「東京・京都・大阪」となりがちな日本観に対して、これらとは異なる文化や風土を誇る北陸域のプレゼンスを、日本の歴史上に位置づけた解説と共に強く印象づける事が出来、参加者の、より包括的な日本文化理解に繋がるものとなりました。

後半のプロジェクト研究では、教員や大学院生の指導のもと、互いに分担を決め、母語と異なる言語でコミュニケーションを取りながらの「国際協働」を体験することとなりました。参加者はいずれも、出身各国の最高学府で学ぶ、数物系大学院進学を目指す学部学生達であり、今回のプロジェクト研究を、国際共著論文参画のきっかけとすべく、今後の活動方針について活発な質問がなされました。

3.さくらサイエンスプログラムの今後の展望について

優秀なアジア学生の受入は、本学日本人学生にとっても大変有益で、研究室内のラボワークという近い距離感で、互いに刺激され、与え合う事で、学生が能力を伸ばしていく様子を見て取ることが出来ます。

アジア学生との交流チャネルは、研究室レベルでの個別の繋がりに大きく依存してきた側面がありますが、学生が興味を持つ研究分野や、学内の研究室陣容も時間と共に変化していくため、大学機関、ひいては、日本全体として継続的にチャネルと求核力を維持するにはさくらサイエンス事業のような、国としての包括的バックアップは極めて重要と感じます。

北陸先端科学技術大学院大学は、学生の4割超が外国人留学生で占められ、外国人教員比率も高く、全て英語で履修可能な、極めて国際性の高い特色を持ちます。優秀なアジア学生の獲得は、本学にとっても重要な生命線の一つとなりますが、アジアで留学を志す学生から見て、我々が欧米と比較して十分な魅力をアピール出来るかを常に意識する必要があります。

本学の場合、関東・京阪神と比べ、地理的にも注目度が低くなるため、さくらサイエンス事業を通じた、積極的アピール機会の確保は、大変有り難く感じております。今回も期間中、本学への進学希望を具現化して、進学のための手続きを調査する学生が数名居り、今後、より一層の本学国際協働体制に向けて、JST本事業には、貴重な機会を提供頂いた事、改めて感謝する次第です。

修了証を手に