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活動報告(公募計画コース) 第28号

韓国梨花女子大学の学生・教員が東京都市大学環境学部環境創生学科を訪問

東京都市大学環境学部

JST(科学技術振興機構)による「さくらサイエンスプラン」の招へいにより、韓国・梨花女子大学生9名とSangdon Lee 教授が平成27年7月に、7日間(7/20~7/26)のプログラムのために来日し、横浜キャンパスの環境学部環境創生学科の田中章(ランドスケープ・エコシステムズ)研究室を中心に本学科の学生および教員たちと研究交流しました。

本プログラムは「Workshop on Habitat Evaluation Procedure for Environmental Impact Assessment」と題され、当方が日本やアジアに普及させつつある、世界で最も普及している定量的生態系評価手法「野生生物生息地評価手続き(Habitat Evaluation Procedure; HEP)」の実践を通じた理解と交流を目的として進められました。

日本ではまだ法制化されていませんが、韓国では高速道路建設において、事業で消失する生態系や野生ハビタット(生息空間)の損失を、事業者の責任で他の場所に復元、創造、維持することによって、当該地域と同様の生態系やハビタットの損失を緩和するための「生物多様性オフセット」が既に制度化されています。生物多様性オフセットは既に世界50カ国以上で制度化されています(残念ながら日本はまだです)。生物多様性オフセットのためには、生態学的かつ造園学的な定量評価手法が必要になります。そのような韓国の状況を反映し、当方が著した「HEP入門―〈ハビタット評価手続き〉マニュアル―Theory and practices for Habitat Evaluation Procedure(HEP) in Japan」の韓国語版が本年5月に出版されました。

今回の国際交流は、生態系やランドスケープを専攻している韓国梨花女子大学の学生たちに、今後、韓国でも必要性が増すと考えれるHEPを紹介し、その意義を学んでもらうことを目的に実施されました。

初日の7月21日(月)、オリエンテーションを行った後、招聘学生らに対しHEP入門の講義が行われました。最初に、後日、グループ発表するHEPプロジェクトが出題されました。講義ではHEPは、わかりにくい自然や生態系を、特定の野生生物種のハビタット条件の充足度によって定量的に評価すること、即ち、エサ条件や営巣条件、水条件などの具体的な物理空間に関する条件から評価することをまず学びました。また、HEPの特徴として、ハビタットの “質”、“空間”、“時間”の3つの観点から総合的に定量評価されるといった特徴が説明されました。招聘学生らは韓国語版「HEP入門」片手に、熱心に聴講していました。


7月21日 オリエンテーション後に行われたHEP講義での様子。HEPの仕組みや特徴、適用事例が田中章教授によって説明されました。

田中章教授著 HEP入門 日本語版(左:2006年出版)、韓国語版(右:2015年出版) オリエンテーション時、韓国梨花女子大学学生らに本年5月に出版された韓国語版が贈呈されました。


7月21日 昼食時、学生食堂にて。
本キャンパス訪問後はじめてとなる昼食には田中章研究室所属学生らも同席し、交流が図られました。

2日目の7月22日(火)には、環境アセスメント制度や企業の生物多様性緑化を含めた、最近の日本におけるHEPの適用事例を学びました。その後、グループに分かれてHEPプロジェクトのための調査や分析やディスカッションを行いました。HEPプロジェクトは、「生物多様性キャンパス化計画プロジェクト」と題するもので、鳥類のシジュウカラ(Parus minor)を評価種としたうえでHEPを用い、本学横浜キャンパス内中庭ビオトープなどの簡単な緑地評価を行ないました。中庭ビオトープは、都市域など狭隘な土地に様々な生物の生息地を創出するために当研究室が開発した「ビオトープ・パッケージ」を用いたもので、2009年にエコプロダクツ大賞を受賞しています。シジュウカラの生息地として、より好ましいキャンパス緑化の提案とその評価に取り組むため、最新鋭のコンピューター機器が揃う本学の情報基盤センターにてグループワークを行ないました。

3日目の7月23日(木)には、「生物多様性キャンパス化計画プロジェクト」成果発表を、復元生態学を学んでいる日本人学生グループの発表と一緒に行いました。HEPで算出される生物の生息地としての適性度合を表す点数を高くするために、どのような緑化デザインが良いのか、専門的で活発な議論が行われました。また、成果発表会の後には環境学部主催のウェルカムパーティーが開かれ、吉崎真司環境学部学部長及び岩松国際センター長をはじめ、横浜キャンパスの教授や学生ら40名が参加し、盛んな懇親会となりました。


7月23日 復元生態学講義内、生物多様性キャンパス化計画プロジェクト発表会の様子。発表は質疑応答も含め、すべて英語を介しながら活発な議論が行われました。

7月23日 同発表会において、韓国梨花女子大学生グループによって示されたシジュウカラの生存必須条件。 これらの条件から評価を行ない、シジュウカラの生息地としてHEPの評価点数を高くするよう考慮した緑化案が、発表で示されました。


7月23日 同発表会における質疑応答の様子、他のグループの提案に対して積極的な意見交換が行われました。

7月23日 「生物多様性キャンパス化計画プロジェクト」発表会終了後に行われたウェルカムパーティーでの集合写真。

4日目の7月24日(金)の涼しく心地の良い早朝には、本キャンパスが位置する横浜市港北ニュータウン内の緑地を結ぶグリーンマトリックス、横浜みどりアップ計画によって整備された農地や樹林地を訪れ、日本の都市郊外における生物多様性保全を絡めた街づくりの事例を見学しました。

午前は、再び、当方による講義で、全世界50カ国以上で法制化されており、自然環境への悪影響を緩和するための段階的な環境保全対策を示すミティゲーションとそのヒエラルキー、先に挙げた生物多様性オフセット及びバンキングについて学びました。これらの最先端の自然環境保全政策の重要性について、定量的評価手法のHEPの必要性と併せて議論がなされました。

午後には、横浜キャンパスを離れ原宿に最先端の都市緑化事例の見学に行きました。屋上緑化に生物多様性を導入した先進事例である東急プラザ表参道原宿「おもはらの森」(当研究室が生物多様性評価を行っています)、およそ100年前に人工的に造成された明治神宮の緑地、その二箇所を結ぶように位置する表参道のケヤキ並木道を、エコロジカルコリドー(緑の回廊)としての機能に着目しながら見学することによって、都市域における緑地保全の現状と今後の在り方が議論されました。


7月24日 東急プラザ表参道原宿、屋上緑地「おもはらの森」見学の様子。ケヤキ並木を眼下に眺め、エコロジカルネットワークの一部として機能する「おもはらの森」の重要性について説明がされました。

7月24日 横浜キャンパス内、田中章研究室が創成した中庭ビオトープにて

最終日である5日目の7月25日(土)には、本プログラムの総括及び修了式が行われ、田中章教授より修了証が招聘された韓国梨花女子学生らに授与されました。それに対して、招聘学生とSangdon lee教授一人ひとりから、本プログラムおよびそれを運営した田中教授や日本人学生たちに丁重なお礼の挨拶がありました。その後、いつものように横浜キャンパスの学食で日本人学生たちと一緒に昼食をとった後、午後には、再び、フィールドに出て、横浜市街山手にある山手のローズガーデンや港の見える丘公園など、日本の古い時代に導入された西洋式庭園緑地を日本人学生と見学し、日本の和洋折衷型の都市緑化技術を学ぶともに横浜の歴史について文化交流が図られました。最後の夜には、横浜キャンパス近くの日本式居酒屋でサヨナラパーティーが開催され、仲良くなった日本と韓国の学生が心から別れを惜しみ再会を誓い合うなど、どちらの学生・教員にとっても学問の交流だけではなくたいへん密度の濃い2か国間の国際交流となりました。


7月25日 横浜・山手のローズガーデンや港の見える丘公園見学後、元町にて。本学、知識工学部女子大生5名のグループとキッコーマン飲料株式会社が共同開発した、「花つぼみ ローズウォーター」を片手に涼む韓国梨花女子大学生

以上のように、今回の招聘プロジェクトでは、招聘学生たちは、HEPや生物多様性オフセットに関する講義、HEPを用いたデザインプロジェクト、日本の都市緑化のフィールド見学を通して、自然環境の保護、保全、復元、維持などの施策においてはHEPのような定量的生態系評価手法が不可欠であること、また、生物多様性オフセットなどの環境政策を法制化する重要性について、日本人学生と共に学ぶことができました。

言うまでもなくこれら全行程は日本人学生もすべて英語でコミュニケーションをとっていました。心配していた日本人学生たちが意外にも意欲的に英語でのコミュニケーションに挑戦しているのを見て、日本人学生にとっても国際化への良いきっかけになったのではと思いました。これらのことから今回の招聘プロジェクトは大成功だったと判断できますが、それは、今回のように専門性を同じくする海外の学生たちが、明確な目的とテーマについて、この目的に見合った講義と教材とフィールドで学び、同じ専門を学ぶ日本人学生が参加する発表会で発表し議論することができたからだと考えています。最後に、このような貴重な機会をいただいたJSTには心より感謝するとともに、今後もこのような国際交流を継続していくことの重要性を考える次第です。

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