2014年度 活動レポート 第3号:学校法人桜美林学園 本田めぐみ

特別寄稿 第3号

さくらサイエンスプログラムの教育的効果と今後の課題について
本田めぐみ

執筆者プロフィール

[氏名]:
本田めぐみ
[所属・役職]:
学校法人桜美林学園総務部総務課職員
[略歴]:
2002年恵泉女学園大学人文学部国際社会文化学科卒業。2004年同大学大学院人文学研究科修了。大学在学中、NGO論・開発学を学ぶため、タイ国立チェンマイ大学に短期留学。大学院卒業後、牧師養成機関である日本聖書神学校に入学。卒業後、福祉業界勤務を経て、2009年学校法人桜美林学園キリスト教教育センター(現キリスト教センター)入職。
2013年より総務課勤務。キリスト教史学会運営委員。
 

さくらサイエンスプログラム実施内容について

受入機関 学校法人桜美林学園
送出し国・機関 中華人民共和国・北京市陳経綸中学
招へい学生数 9名
招へい教員などの数 1名
実施した期間 2014年7月13日(日)~7月20日(日)
 

1.さくらサイエンスプログラムのプログラムの目的について

本学では、SSPの趣旨を踏まえ、本学がもつリソースの活用を検討した結果、東京都から認定を受けているECO-TOPプログラム実施大学として、「科学技術と環境問題」をテーマにプログラムを策定した。
本学と送出し機関である陳経綸中学(中国北京市。以下、陳経綸)は、共に「崇貞平民女子工読学校(後に崇貞学園と改名)」が創立の起源であり、現在も「学而事人」(「学びで人に仕える」の意)という同じ教育理念を共有している。
これには、戦前、教育の機会も与えられない貧しい中国の女性たちのため、苦心の末、学校を設立した創立者、清水安三の「学びとは社会に還元してこそ、本来の輝きを得るものである」という信念が込められている。
崇貞学園は戦時中も、日本、中国、朝鮮半島の子供たちが分け隔てなく、それぞれのアイデンティティを尊重しつつ教育され、創氏改名によって日本名を名のらざるを得なかった生徒名も本来の名前や発音により、呼び合う教育が施されていた。
こうしたキリスト教精神に基づく豊かな国際性も、本学と陳経綸の両校に受け継がれている。 環境問題というグローバルな課題をきっかけに、両校の建学の精神に基づき、国際社会で貢献することができる人材となることを願ってプログラムを作成した。

送出し機関との関連について

本事業は引率教員1人、生徒9人(日本の高校生相当の生徒8人、飛び級で高校生と同等のクラスを受講している中学3年生1人)の合計10人を招聘した。参加生徒は「北京市科学技術インテリジェンス大会」の金賞受賞者等、選抜された優秀者である。
陳経綸と本学の関係は前にも述べたとおり、創設に同じ流れを持ち、教育理念を共有しているという点で、深い友好関係にあり、教員や生徒の交流も積極的に行われている。

2.実施内容について

本学は、「ECO-TOPプログラム」(自然環境の保全を推進するために、自然環境分野で幅広い知識を有し、アクティブに行動できる人材の育成を目的とした、東京都の人材育成・認証制度)の認定校であり、学内だけでなく地域や行政と連携し、環境問題に取り組んでいる。
すでにあるこうした取り組みを活かし、今回のプログラムでは学内の講義や実験の他、わが国における地域社会や行政のエコに関する取り組みを実際に見学する機会を設けた。具体的な講義、実験、見学先、及び生徒からの感想は以下のとおりである。

(1)プログラムの内容と主な感想
【講義】
「日本の大気汚染の改善の歴史」(講師 本学教授 秀島武敏)
「大気汚染物質と除去対策」(講師 本学教授 秀島武敏)
「宇宙からみた地球」(講師 本学教授 宮脇亮介)
「環境問題とは何か 私たちはどうすればよいのか」(講師 本学教授・環境研究所所長 片谷教孝)
「東京都における環境行政の大きな流れ」(講師 東京都環境局)
【見学】
桜美林大学理化学館 環境測定器施設・設備見
町田リサイクル文化センター
東京都環境局
株式会社エネルギーアドバンス新宿地域冷暖房センター
日本科学未来館
独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)相模原キャンパス
【その他】
「陳経綸中学校・桜美林中学高等学校 生徒交流(研究発表会)」
「風呂敷の使い方を体験 ― 日本の伝統的なエコを学ぶ」
「日本の伝統文化を体験 ― 茶道部、弓道部、剣道道場見学」

風力発電の実験

水質測定の実験

風呂敷の使い方を学ぶ生徒たち

新宿地域冷暖房センター見学

【主な感想】
  • 現在、中国ではPM2.5等が問題となっているが、日本にも大気汚染が問題となっていた時代があったことを初めて知った。日本もそうした時代を経て、現在に至っているので、中国でも対策をすれば、改善できるのではないかと思った。
  • 私たちも身近なことから、環境問題について取り組みができると思った。
  • 自然エネルギーへの興味が湧いた。
  • 中国にはないゴミの細かい分別や、リサイクル技術に感動した。
  • 日本の伝統文化とおもてなしの精神を学び、リサイクル等の日本のエコに対する取り組みは、まさに日本人の「気遣いとおもてなしの技術」であると、感銘を受けた。
(2)効果について

日本の大気汚染の歴史や環境問題対策に関する講義、及び東京都環境局と町田リサイクル文化センターでの講義と施設見学は、環境問題の重要性を提起したと共に、「環境問題は対策をすれば、改善される問題である」ということを生徒たちが理解した。また、「環境問題とは何か 私たちはどうすればよいのか」の講義では、「環境問題対策は誰でも、身近なことからできることである」ということを生徒たちが理解した。
風力発電や身近なものを使った電池作りの実験は、楽しく取り組める内容となっており、自然エネルギーに対する興味を高める効果が得られた。
町田リサイクル文化センターでのリサイクル技術、及び新宿地域冷暖房センターでの最先端の新宿地域の冷暖房技術の見学内容は、生徒たちには新鮮な内容であったようである。
日本のゴミ分別とリサイクル技術に対しては、「日本の伝統文化を体験し、リサイクル等の日本の技術は、日本人の細やかな気遣いとおもてなしが感じられる技術だと思った」との感想があった。
この点において、茶道部や弓道部の見学、風呂敷体験等の日本の伝統文化を体験するプログラムも、日本の技術を学ぶ上では結果として効果的であった。
プログラム終了後に生徒たちのその後の変化について、陳経綸の引率教員にヒアリングを行なった。その結果、「SSPに参加した生徒は科学的興味、及び日本への興味も増している。今後、彼らが日本への留学を考える可能性も十分考えられる」とのことである。
最終日に聞いた生徒たちのプログラム全体の感想には、「将来は日本と中国の架け橋となるような研究者になりたい」、「立派な研究者となって、いつか北京の空を青い美しい空にしたい」、「自分の成長のためにも、また国の発展のためにも、この経験を役立てたい」等の前向きな意見があった。
今回の取り組みを総括すると、このプログラムにより日本の環境問題への取り組みや科学技術への興味、さらに「環境問題」がグローバルかつボーダレスな課題であるということについて関心が高まったと考えられる。
SSPにより、日本の科学技術や文化を紹介するに留まらず、グローバル時代における諸課題を担う人材が輩出されることを期待したい。

3.今後の国際交流について

反省点として、陳経綸より「次回は事前に具体的な共通のテーマを決め、それに対して研究発表や討議を行なってはどうか。その方が、日本と中国の文化や考え方の違いをより深く学ぶことができ、双方の生徒たちが、自国や自分自身に不足しているものを認識し、彼らの今後の成長につながるのではないか」との意見が出された。
今回、事前に陳経綸へテーマやプログラムに関する要望のヒアリングを実施していたが、時間的制約の中で、協議調整する時間をとることができなかった。だが、参加者の交流と学びをより深めるため、企画段階から当事者間の協議を重ねることが、今後の重要な検討課題である。
また、継続して交流事業を進めていくためには、人的、資金的資源は欠かせない。この点においては、プラグラム趣旨の周知と協力者の掘り起こし、学外資金の調達などが課題となる。

4.さくらサイエンスプログラムに対する希望と期待

今後のSSPの発展のため、「招聘者、及び招聘した側にどのような変化があったのか」について、追跡調査の継続が課題であり、その仕組みを整備する必要がある。
また、引き続き、各団体のプログラムの様子や情報等がホームページやフェイスブック、冊子等で公開されることは有効と考える。
JSTとSSPの採択を受けた団体同士の意見交換の場があれば、相互の情報交換ができ、今後のプログラムの改善に活かすことができると考えられる。また、これにより共通のプラットホーム形成にも役立つものと思われる。