2014年度 活動レポート 第2号:福井大学大学院工学研究科 桑水流理准教授

特別寄稿 第2号

国際原子力人材育成に向けたベトナムと日本の人材交流
桑水流理

執筆者プロフィール

[氏名]:
桑水流理
[所属・役職]:
福井大学 大学院工学研究科 原子力・エネルギー安全工学専攻・准教授
[略歴]:
芝浦工業大学工学部機械工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科機械情報工学専攻修了、2001年に博士(工学)取得。
東京大学生産技術研究所助手を経て、2008年より現職。
 

さくらサイエンスプログラム実施内容について

受入機関 福井大学
送出し国・機関 ベトナム・電力大学
招へい学生数 8名
招へい教員などの数 2名
実施した期間 2014年9月21日~9月28日
 

1.さくらサイエンスプログラムのプログラムの目的について

福井大学では、国際的な原子力人材育成を推進しており、その一環として、ベトナムの大学との連携を強化しつつあります。ベトナムでは急速な経済発展を支えるための安定な電源として、原子力発電所の導入が計画されており、ロシアと日本の原子炉が建設される予定です。ベトナムでは初めての原子力発電所なので、これらを安全に運転、維持管理していくための多くの技術者が必要とされています。

ベトナム政府は原子力人材育成を支援し、ベトナム国内の大学に原子力工学教育を行える体制を整えようとしています。特に、これから原子力工学で博士号を取得しようとする若手教員の育成に力を入れており、ロシアや日本への留学を支援しています。これに対し、日本では原子力関連の専攻を持つ大学が、ベトナム人留学生を受け入れるための態勢を整備しているところです。

福井大学でも、ベトナム教育訓練省と協定を結び、ベトナム政府奨学金による留学生を受け入れられるようになっています。また、ベトナムの電力公社が運営する電力大学とも大学間交流協定を結び、原子力分野におけるベトナムの若手教員の育成と、継続的な国際原子力人材育成において協力していくことになっています。

そこで、今後留学を希望する学生に直接、福井大学を知ってもらうため、さくらサイエンスプログラムの支援で、電力大学の若手講師と学生を福井大学に招待しました。1週間の研修プログラムにより、福井での教育だけでなく、福井の企業や文化についても学んでもらいました。

2.実施内容について

ベトナム・電力大学の講師2名と学部学生8名を招聘し、2014年9月21日~28日の1週間を掛けて、福井大学の文京キャンパスと敦賀キャンパスおよび周辺の企業を見学するプログラムを実施しました。

1日目は、特別講義、学内見学および学生交流会を実施しました。特別講義では、仁木秀明教授よりレーザー同位体分離に関する難しい講義を行いましたが、興味深げに聞いていました。

交流会では、電力大学の学生からはベトナム文化を紹介してもらい、福井大学の学生からは眼鏡デザインプロジェクトの成果を英語で発表し、質疑応答しました。最後に、電力大学の学生がベトナムの民族舞踊を披露してくれました。

先端科学技術育成センターの見学で記念品をもらいました

学生交流会ではベトナムの民族舞踊を披露してくれました

歓迎会の後の記念撮影

2日目は、祝日のため、福井県立恐竜博物館と永平寺を見学しました。福井県立恐竜博物館では、特別展示「スペイン奇跡の恐竜たち」も観覧しました。恐竜から鳥への進化の過程や、人類の出現に関して、熱心に質問していました。

永平寺では、修行僧の方の案内で、広い境内を3時間近く掛けて、見て回りました。修行僧の普段の生活や入門の際のエピソードを聞き、新鮮な驚きを感じていました。

3日目は、福井県内の企業を2社見学しました。セーレン株式会社研究開発センターの見学では、同センターの平野様から世界展開している事業内容や採用実績、サンプルを見ながらの製品紹介などの説明がありました。

また日華化学株式会社の見学では、同社の松田様より会社概要と事業内容の説明を受けた後、毛髪用化粧品の生産ラインを見学しながら製造過程の説明を受け、生産現場での品質管理の厳しさを勉強しました。

藤島高校との学生交流会も実施しました。6つのグループに分かれ、それぞれのグループで、一人ずつ英語でプレゼンテーションを行い、質疑応答が行われました。

藤島高校での学生交流会の様子

4日目は、敦賀キャンパス(福井大学附属国際原子力工学研究所)で特別講義を受けました。宇埜正美副所長から研究所の概要を聞いたあと、島津洋一郎特命教授から日本の原子力発電の現状に関する特別講義がありました。この講義では、一般的な原子力システム概要の説明と、福島第一原子力発電所事故の概要を説明してもらい、電力大学の学生は食い入るように聞き入っていました。

島津洋一郎先生の特別講義に耳を傾ける電力大学の学生達

午後は福井県原子力環境監視センターを見学し、可搬式モニタリングポストやモニタリングカーを見学しました。データセンターでリアルタイム表示される空間線量率や気象データを見ながら説明を受け、多くの質問が飛び交っていました。その後、敦賀キャンパスに戻って、各種分析機器を見学した後に、歓迎会を行いました。

福井県原子力環境監視センターにて観測データを見ながら説明を受ける様子

附属国際原子力工学研究所の玄関前での記念撮影

5日目は、敦賀市内の二つの施設を見学しました。午前中は、公益財団法人若狭湾エネルギー研究センターを見学し、タンデム加速器とシンクトロン加速器を連結した加速器についての説明を聞きました。陽子線がん治療や植物の品種改良への応用事例が紹介され、電力大学の学生たちが目を輝かせていました。

午後には、関西電力株式会社美浜発電所を見学しました。電力大学の学生は初めて実際の原子力発電所を見学したとのことで、たくさんの質問が出ましたが、福島事故後の日本の安全対策の取組に感心した様子でした。

最終日の6日目は、大阪市立科学館を見学しました。齋藤館長から科学館の歴史と概要の説明を受けた後、館内を見学しました。発電体験施設なども堪能し、「ベトナムにもこういう施設があったら良い」、「ここの展示物を他の場所に持って行って展示したりは出来ないのか」などの意見が聞かれました。

館内を見学したあと、会議室で質疑応答を行いました。そこでも熱心な質問が続出し、彼らの熱心さや勤勉さが強く印象に残りました。その後、修了証を授与して、全てのプログラムが終了しました。

3.今後の国際交流について

現在、電力大学の他にも、ベトナム国内のいくつかの大学と協定を結ぶために、準備を進めています。まずは原子力工学分野での協力体制の構築を目指しますが、協定の目的は原子力工学だけでなく、他の全ての工学分野を含みます。今回のようにJSTさくらサイエンスプログラムなどを利用して、短期研修を実施することにより、協定校やそれ以外の大学から出来るだけ多くの学生や若手教員に実際に福井大学を体験してもらう予定です。

その中から、福井大学の博士前期課程あるいは博士後期課程に留学してくれる学生が定常的に出て来てくれることを期待しています。そのため、留学生の奨学金獲得に向けた支援体制についても、ベトナムの大学と協議しているところです。留学生が根付くまでは、根気の要る仕事ですが、継続することが何よりも重要であると思います。

4.さくらサイエンスプログラムに対する希望と期待

今回のプログラムを通じて、ベトナム・電力大学の学部学生と直接交流できたことは大変貴重な機会であったと思いますし、若手講師とは博士号取得に関する意見交換もできました。来年度は、電力大学だけではなく、他の大学にも対象をひろげて実施する予定です。

さくらサイエンスプログラムには、ぜひ長期的な実施を期待致します。日本の大学を直接見て、大学教員と知り合う機会を作ることは、日本への留学希望者を増やす最も近道であると思います。特に、知っている教員が一人でもいるということは、留学生にって非常に心強いことですし、何かのときに相談できる相手がいれば、留学に至る可能性も飛躍的に高くなります。

また、このようなプログラムを通じて、相手の大学の教職員とも交流ができ、留学生の勧誘だけではなく、相手国と日本が協力して実施する国際的な人材育成における協力体制の強化にも繋がります。さくらサイエンスプログラムが長期継続され、日本の留学生支援体制の整備に貢献することにより、日本がアジアの研究開発の拠点として相応しい人材育成の場になることを祈ります。