2014年度 活動レポート 第10号:富士電機株式会社 技術開発本部技術統括センター 雷云、伍暁峰

特別寄稿 第10号

中国浙江大学若手研究者による富士電機訪日・交流の実施
雷 云、伍 暁峰

執筆者プロフィール

[氏名]:
雷 云
[所属・役職]:
富士電機株式会社 技術開発本部 技術統括センター
[略歴]:
慶応義塾大学 経営管理研究科修士課程修了、MBA
2001年富士電機株式会社に入社
現在、技術開発本部に所属、浙江大学との協業推進を担当。
[氏名]:
伍 暁峰
[所属・役職]:
富士電機株式会社 技術開発本部 技術統括センター
[略歴]:
浙江大学 電気工程学院博士課程修了、工学博士
2011年富士電機株式会社に入社
現在、技術開発本部に所属、浙江大学との共同研究開発を担当。
 

さくらサイエンスプログラム実施内容について

受入機関 富士電機株式会社
送出し国・機関 中国浙江大学
招へい学生数 12
招へい教員などの数 5
実施した期間 2014.8.29 ~ 2014.9.14
 

1.さくらサイエンスプログラムのプログラムの目的について

「さくらサイエンスプログラム」の主旨は日本におけるグローバル人材の獲得と育成に置かれていることをいうまでもありません。実際にこのプランを利用した日本の大学や研究機関の多くは留学生の誘致、該当研究領域の海外人材の育成に繋げたい狙いが散見されます。一日本企業として、このような交流イベントを行う目的として、勿論、企業の研究開発や事業活動に必要な人材の確保という直接的な狙いがありますが、広く日本という国を知って頂き、日本ファンを増やすことで、長期的な人材の交流と活動場面の提供があります。大学や研究機関と異なってしかるべき側面はやはりビジネスとの結び付きであります。

当社(富士電機株式会社)は、中国市場でのビジネスを拡大させるため、中国の大学が政府の政策助言役と企業の研究開発の牽引役をなしている国情を踏まえ、2003年から中国浙江大学との産学連携協業を推進しており、長期に亘って共同研究開発、技術・人材交流、新事業創出活動を取り組んでいます。2014年には共同で「浙江大学-富士電機協業センター」を立ち上げ、双方の強い分野での研究開発から事業創出までの一貫した産学協業を進めています。幅広い協業活動の中、2009年8月、当社が双方の共同開発テーマに参加していた浙江大学の若手研究者と大学院生を招いて、本「さくらサイエンスプログラム」と規模は小さいながら、同様なイベントを主催して、良い効果を得た経緯もありました。実は、筆者伍暁峰が当時の来訪者メンバーの1人でした。また、2014年3月、JST様が中国大学における産学連携の状況を視察するため、浙江大学を訪問し、当社と浙江大学との協業を視察いただき、双方の取組みを評価した上、浙江大学にも「さくらサイエンスプログラム」の利用をお勧めいただきました。

このような背景を踏まえて、当社が浙江大学と検討した結果、共同で本プランに参加する運びとなりました。なお、「さくらサイエンスプログラム」本来の主旨に加え、これまで双方の産学協業の一貫として、大学若手研究者・学生との具体的、且つ深い交流によって、双方の協業活動の更なる円滑化を図ることを目的としました。

そして、活動の目的に沿って、来日経験がないことを前提に、当社の主要事業分野と強い関わりを持つ電気、エネルギー、制御、環境、IT分野から、研究開発経験および一定のビジネス知識を持っている若手教員・研究者(5名)と博士課程中心の大学院生(12名)を選定しました。うち、当社および日本との接点が少ない、今後当社との協業に参画する可能性がある大学院生10名をAコースメンバーとして、当社の事業・技術への理解および日本に関する基本知識の習得をしてもらう考えで、当社の伝統的な事業と拠点(発電:川崎工場、送変電:千葉工場、研究開発:東京工場)、および人事・教育制度(能力開発センター)を案内することにしました。また、日本の代表的な技術・社会インフラおよび日本の歴史・自然触れてもらうために、休日を利用して、東京の日本未来科学館、船の科学館、自動車ショールーム、東京駅、浅草などの見学もプログラムに組み入れました。

一方、当社との協業活動に携わったことのある若手教員・研究者5名と博士課程大学院生2名をBコースメンバーとして、共同開発の関連技術交流を含め、当社の事業内容、製造拠点を深く紹介することによって、協業テーマの円滑な実行を促し同時にメンバー達による当社イメージの浸透効果を図ることにしました。そのため、これまでに触れた当社技術・製品、特に品質に対する要求度合への理解を深める効果を期待して、当社の先端技術現場(山梨製作所:パワー半導体)、パワエレ製品の生産拠点(神戸工場)、駆動制御の主力拠点(鈴鹿工場)の訪問を追加しました。また、日本で自らの経験と教訓によって打ち出した安全・安心コンセプトを感受させ、日本の大学・大学生の学習・生活振りを観察・比較してもらうために、神戸の「人と未来防災センター」、「京都大学」の見学を加えました。更に、日本における研究開発レベルの高さが把握できるという考えで、期間中に開催された「科学設備展示会JASIS2014」の見学も組み入れました。

なお、一度に多くの大学の研究開発の状況を見学させるため、開催時期に合わせてイノベーションジャパン2014にも参加させました。

浙江大学-富士電機協業センター事務所

富士電機東京工場訪問

イノベーションジャパン2014参加

2.実施内容について

約4ヶ月間の準備を経て、8月29日から9月14日まで17人を「科学技術交流活動コース(Aコース)」と「共同研究活動コース(Bコース)」に分けて来訪交流活動を実施しました。 安全かつ円滑に訪問プログラムを実行するため、まず、浙江大学にて事前説明会を行い、日本社会における基本的な知識・慣習、当社の概要、開催の目的、期待効果、総括方法などを説明し、来訪者の質疑を答えた上で、必要な準備事項を確認しました。

そして、8月29日に、Bコースメンバー7名が来日し関西空港に到着しました。翌土日を利用して、関西地区の街並みを案内しながら、神戸の「人と未来防災センター」など社会施設を案内しました。メンバー達が神戸震災に関する資料の見学や震災経験者の語りを通じて、災害の多い日本に対する認識や日本社会および日本人の災害における意識や復旧への取組みを感受することができ、全員が安全・安心の重要性や、日本社会全体が取組む姿勢に対して一定の理解を得たと言っています。

9月1日から、来訪者達が各種交通システムを利用して、日本の自然、風景を堪能しながら、順次に当社の神戸工場、鈴鹿工場、山梨製作所を訪問しました。製品・製造ラインの見学だけでなく、当社の持つ先端技術の講義を受け、事業・技術の最前線にいる当社の事業・技術責任者・担当者と交流を行いました。至るところで、メンバー達からの質問が絶えず、度々時間が足らず、交流を打ち切らざるを得ない状況に陥っていました。当社の案内者から「皆さんが熱心で、勉強意欲がとても高い」との評判でした。一連の詳しい紹介・案内・交流によって、メンバー達から「工場はよく整理整頓されている」、日本に「技術資源が豊富、環境に優しいエネルギー、半導体、MEMS等の先進技術が多い」、「高効率Sic製品、燃料電池、発電設備等の先端技術が多い」と多くの感想が寄せられ、それらの製品化・事業化を支える「サプライチェーンも強い」と感激した人もいます。

神戸防災センターで震災経験談を聞く
 
 

富士電機鈴鹿工場での製造ライン見学、駆動技術セミナー

9月5日から、Aコースメンバー10名が合流し、Bコースメンバーの見聞をシェアしながら、東京の名所や日本未来科学館など代表的なスポットと公共施設を見学しました。

9月8日、全員が日野市にある当社の東京地区を訪問し、MEMSやスマートコミュニティなど最先端の技術開発やデモプラントを見学して、関連事業の責任者による技術・事業の紹介講義を受けました。また、当社の海外人事部長より、当社の人事・教育制度についてセミナーを実施し、日本企業における社員育成の基本的な考えおよび豊富なプログラムを紹介しました。殆どの来訪者が日本企業は「社会責任、社員教育を重視している」と感じていたようです。

その後、当社の若手研究員、中国籍の従業員を集め、和やかな雰囲気の中で当社社員の研究内容や日々の仕事、生活について懇談しました。後に「社員は日々の仕事に対しての真面目な姿、目標に対して最後まで取り組み姿勢」が印象に残ったと言っていました。

9月9、10日、当社の伝統事業を担う川崎工場と千葉工場を見学し、メンバー達がモノづくりの職人技を目の当りにして、品質管理レベルの高さに感心し、持っていた自動化設備が立ち並ぶ日本企業のイメージとのギャップの大きさに吃驚した人もいます。

主な訪問プログラムを終え、9月12日当社大崎本社にメンバーが集まり、当社役員および浙江大学研究開発・産学連携責任者の参加の下、来訪者全員の感想発表や活動の実行結果総括会を開催しました。来訪者が一人ずつ発表し、技術だけでなく、各種社会施設見学、買い物、食事などを通じて、日本社会や日本人に対しての印象を語ってくれました。

日本社会については、「空気と町が綺麗、風景が美しい、食品が健康的、防災の意識と技術レベルが高い」と日本を讃える人が多く、特に、「交通システムが便利で効率的、社会環境も良く整備されている」と称賛の声が多く聞かれました。中には、「ものを大事にする」慣習があってこそ、「歴史・文化遺産が大事に守られている」と気付いた人もいます。

日本人について、殆どの来訪者が「マナーが良く、秩序を守る」、「真面目で勤勉な人が多い」などと感じたようです。「電車の中では静かで読書する人が多く、街中で飲食している人を見掛けない」と日本人として当たり前で気が付かなくなったことを感想に言う人もいました。「道に迷ったらいつも親切に案内してくれた」などのように、自らの体験によって、これまでの先入観とは大きく違う日本や日本人に対して良い感情を持って帰国したことは間違いないでしょう。

能力開発センターでの人事・教育セミナー

富士電機本社での実施結果総括会

3.今後の国際交流について

綿密な計画とこれに基づく遂行による結果、来訪者17人が17日間に渡って日本の6都府県を回り、当社および6拠点を訪問して数十人の当社第一線にいる事業・技術担当職員との交流を果たしました。同時に、10数箇所の公共施設を見学して、安全で充実した日本学習・体験をすることができました。

日本企業、日本社会、日本人に直接に触れることによって、来訪者達が感想として語ってくれたように、「日本に対してもっと客観的に見る必要がある」、「ぜひ、自分の貴重な体験や日本に対する印象を帰国後に周りの人に伝えていきたい」、機会があれば、「日本企業に就職したい」、「日本に研究・留学しにまた来たい」と、語ってくれたことは最も意味のある効果だと考えます。

本活動の実施に当って、当社が招聘機関として、取締役技術本部長を始め、関連事業・拠点責任者を含め、100人以上の職員を動員し、事業、技術、製造の側面からセミナー、現場案内、交流を行い、活動の運営に参加しました。また、派遣機関としての浙江大学との長い信頼関係があってこそ、双方が一体となって取り組んだ結果、円満で充実した結果に繋がったとも言えます。

当社として、JST様からこのような機会をいただき、また、実施に対して多大なご指導、ご支援をいただいたことに感謝するとともに、本活動の成果を生かし浙江大学との産学協業を更に推進し、日本の科学技術の発展と世界への貢献を推進していきたい所存であります。

 

4.さくらサイエンスプログラムに対する希望と期待

このような官民一体の取組みは来訪者の日本の先端科学技術への関心を高め、更に、日本の文化・生活・社会を体感させることによって海外の若者の日本に対する客観視の助長に役立つと思います。同時に、来訪者から「時間が短い」、「もっと見たい」との声も多い事から、更に広く、深く日本を紹介したいがゆえに、一企業ならではの限界も感じており、今後の課題になるのではないかと思います。また、日本の若者も中国に出向いて、来訪者たちとの継続的な交流を図るなり、引き続き日本を紹介していくフォローも大事ではないかと考えます。